立ち上がる瞬間、まず床を踏みしめるのはかかとである。歩き出す瞬間、最後に床から離れるのもかかとである。かかと(踵)は、足底で最も大きく頑丈な骨である踵骨(しょうこつ)を表面から覆う領域で、立位・歩行で全体重を受け止める身体の基底部である。性器・乳房・くびれといった性的記号の中心軸からは遠いが、ハイヒール文化と結びつくことで、女性身体の魅力を拡張する独立した性的記号として機能してきた。
かかと(踵)とは、足底後部の隆起部、足首と足底の境界に位置する部位を指す通俗名称である。解剖学的には踵骨が表面に隆起した領域で、足底の他の部位と比べて皮膚が厚く角質化し、踵骨の下にはアキレス腱が付着する。歩行と立位で体重を受け止める基幹部位であると同時に、ハイヒール文化を介して女性身体の表現と密接に結びつく。
解剖
かかとを構成する踵骨は、足部で最も大きい骨で、後方に長く張り出してアキレス腱の付着部となる。踵骨の下面は皮下脂肪体(踵脂肪体、heel pad)で覆われ、これが歩行衝撃を吸収するクッションの役割を果たす。表面の皮膚は身体で最も厚い部類で、角質層が発達して耐摩耗性を持つ。
形状の個体差は大きい。踵骨の張り出し方、踵脂肪体の厚み、皮膚の角質化の程度により、かかとの輪郭は人によって大きく異なる。女性は男性より踵骨が小さく、踵全体の輪郭が丸みを帯びる傾向がある。年齢とともに踵脂肪体は薄くなり、皮膚の乾燥・角質化・ひび割れが進むため、若いかかとと年配のかかとには明確な差が出る。
血管系では、後脛骨動脈・腓骨動脈の枝が分布する。神経分布は脛骨神経の踵骨枝が皮膚知覚を担う。性感帯としての感度は土踏まずより低いが、足全体の中で独立した触覚を持つ。
ハイヒールとの結びつき
かかとが文化的に強い意味を持つ最大の理由は、ハイヒール文化との結びつきにある。ハイヒールは、かかとの位置を人為的に高く持ち上げる靴であり、これを履いた女性の身体には複数の変化が生じる。
第一に、姿勢の変化。かかとが上がることで体重が爪先側に移動し、骨盤が前傾する。その結果、腰の反り・尻の突き出し・胸の張り出しが強調され、いわゆる S カーブの体型が強制的に作られる。これは女性の二次性徴を視覚的に増幅する装置として機能する。
第二に、歩行の変化。ハイヒールでの歩行では一歩一歩が短くなり、腰が左右に振れて骨盤の動きが強調される。この歩き方は性愛的な記号として広く読まれ、欧米のドラッグクィーン文化・ストリッパーパフォーマンスでも継承される基本動作となっている。
第三に、ふくらはぎ・脚全体の変化。かかとが上がることでふくらはぎの腓腹筋が緊張し、ふくらはぎの輪郭が引き締まる。脚全体が長く見え、ストッキング着用と組み合わさって脚線美が強調される。
これらの変化を生む装置の中心がかかとである。ハイヒール上で浮いたかかとは、女性身体の人工的な美の記号として、近代以降のファッション・性愛文化の中核を担ってきた。
性的記号としての位置
かかと自体は性器ではないが、ハイヒール文化を介して強い性的記号性を獲得してきた。
第一に、視覚記号として。ハイヒールから露出するかかと、ストラップサンダルから覗くかかとの輪郭は、足の形状美の中心要素である。足フェチ嗜好の文脈では、かかとの形・色・角質化の状態が独立した評価軸を形成する。
第二に、足音の記号として。コツコツとアスファルトを叩くハイヒールのかかと音は、女性の接近を聴覚的に予告する記号として、映画・ドラマ・小説の演出で繰り返し用いられてきた。リズミカルな足音そのものが、視覚以前の性愛的緊張を生む。
第三に、踏みつけ・崇拝の記号として。SM 文脈では、ハイヒールのかかとで踏まれること(トランプリング)が独立した行為として記号化される。鋭く尖ったヒール先端で身体を踏まれる行為は、痛みと服従の象徴的表現として機能する。
文化史
ハイヒールの起源は 16 世紀の中東・欧州にあり、当初は男性貴族の乗馬靴として発達した。女性のハイヒール文化は 17-18 世紀の宮廷文化で確立し、19 世紀以降の市民階級への普及を経て、20 世紀のファッションの中核装置となった。1950 年代のスティレットヒール(細く尖った踵)の発明は、かかとを最も強調する形態として現代まで継承される。
日本ではハイヒール文化は明治以降の洋装化とともに導入され、戦後 1950 年代以降に本格普及した。1980 年代のボディコンブームでハイヒールは女性ファッションの中軸となり、現代に至るまで職場・夜の場・パーティーシーンの標準装備として継承される。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系』 医学書院 (2017)
- 『ハイヒールの文化史』 原書房 (2014)
- 『靴と足の文化史』 明石書店 (1996)
別名
- 踵
- calcaneus
- kakato