黒いレースのワンピース、額に垂れる前髪、十字架のチョーカー。重く沈んだ色のなかに、少女めいたフリルとリボンが咲いている。退廃と無垢、死と可憐さ。相反するものを一着の服の上で同居させる美学を、人はゴスロリと呼ぶ。
ゴスロリ(ゴシックロリータ、英: gothic lolita)とは、ヴィクトリア朝の少女服を下敷きにしたロリータファッションに、黒を基調とする退廃的なゴシック趣味を融合させた、日本発のファッション様式である。1990 年代の原宿を中心に確立し、ストリートファッションの一ジャンルにとどまらず、視覚的なフェチ対象としても独自の位置を占めてきた。
概要
ゴスロリの造形は、フリル・レース・リボンを多用した膝丈のワンピースを基本とし、黒を主体に深紅・紫などの暗色を配する。十字架・薔薇・棺・蝙蝠といったゴシック的モチーフ、白塗りに近い肌、濃いアイメイクが組み合わされ、全体として「美しく着飾った少女」と「死や退廃の気配」を同時に纏う。
ロリータファッション全体は、甘さを前面に出す「甘ロリ(スイートロリータ)」、クラシカルな「クラロリ」など複数の系統に分かれる。ゴスロリはそのなかで、ゴシック(暗黒・退廃)とロリータ(少女性・可憐さ)という二つの美学を掛け合わせた系統を指す。
ファッション史
ゴスロリの源流のひとつは、ヨーロッパのヴィクトリア朝(19 世紀)の子供服・少女服にある。コルセットを排した身頃、たっぷりとしたスカート、レースの襟といった当時の意匠が、ロリータファッションの構造的な祖型となった。もうひとつの源流は、1980 年代の欧米のゴシック・サブカルチャー、すなわちゴシックロックやポストパンクから生まれた黒衣中心の美学である。
この二つの系譜が日本の原宿で交差し、1990 年代に独自のスタイルとして結晶した。当時のヴィジュアル系バンドの衣装、少女漫画やゲームのキャラクター造形が普及を後押しし、専門ブランドや専門誌の登場によってジャンルとして確立した。2000 年代以降は海外にも輸出され、日本のストリートファッションを代表する様式のひとつとして国際的に認知されている。
ヴィクトリアン要素
ゴスロリの根底には、ヴィクトリア朝の少女像への憧憬がある。コルセットで締め上げられた身体、床に届くほどのドレス、人形のように整えられた佇まいといった意匠は、19 世紀ヨーロッパの上流階級の少女のイメージを引用したものである。「人形のような少女」という規範化された美の像が、フリルとレースの過剰な装飾を通じて再現される。
この「ヴィクトリアン」な美学は、ゴスロリだけでなく、より広く拘束的な衣装や人形愛好の嗜好とも接続する。コルセットによる身体の造形、過剰な装飾による「もの」への接近、無垢さと退廃の同居といった要素は、ファッションの領域を超えて、視覚的なフェチ対象としての魅力を構成する。
フェチ対象としての位置づけ
ゴスロリがフェチ対象として機能するのは、その造形が「無垢さ」と「退廃」という相反する記号を同時に発するためである。少女めいた可憐さは庇護欲・ロリ的な愛着を喚起し、黒い退廃性は背徳・耽美への欲望を刺激する。この両義性が、見る側に複層的な欲望を呼び起こす。
成人向け表現では、ゴスロリ衣装はコスプレ・制服と並ぶ衣装フェチの一系統として扱われる。衣装を着せたまま、あるいは脱がせていく過程そのものを見せ場とする演出が定番化しており、フリルやレースの装飾性が、肌の露出とのコントラストを生む装置として機能する。装飾過多の衣服が肉体を覆い隠すことで、かえって覆われた身体への想像を強める構造である。
なお、ゴスロリの「ロリータ」はファッション様式の名称であり、現実の児童を対象とするものではない。あくまで成人が纏う様式美・衣装記号として論じられる。
関連項目
最終更新
「ゴスロリ」の動画作品
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参考文献
- 『ファッションの哲学』 フィルムアート社 (2019)
- 『Japanese Goth』 Universe Publishing (2007)
- 『ロリータファッション』 グラフィック社 (2018)
別名
- ゴシックロリータ
- ゴシック・ロリータ
- gothic lolita
- ロリータファッション