研磨剤を塗り込んだ瞬間、表面が鏡のように立ち上がる。皮膚に直接吸い付き、関節の動きで光の筋が走り、僅かな汗で匂いが立ち上る。ラテックスはゴムの一種でありながら、布や革とは別の物理現象を持つ素材である。第二の皮膚という比喩がそのまま実態に近く、装着者の身体形態を布より精密に写し取り、観察者にはほとんど裸体以上の情報量を与える。20 世紀半ばの英国でこの素材を性的衣装として体系化したフェティッシュ文化は、半世紀以上にわたって独立した美学を磨き続けてきた。ラテックスフェチ(英: latex fetish)とは、ラテックス素材で身体を覆うこと、およびその光沢・密着感・匂いを性的興奮の対象とする嗜好の総称である。
語源と定義
英語 latex はラテン語 latex(液体)に由来し、ゴムの木(ヘベア)などから採取される樹液を指す。本項で扱うのは天然ゴムから加工された薄いシート状の素材で、厚さ 0.18-0.80 mm 程度のものが衣装に用いられる。狭義にはこの天然ラテックス素材で作られた衣装を着用する嗜好を指し、広義には類似の合成素材(PVC、TPU、シリコン)も含む場合がある。
ラテックスは厳密にはラバーの一種だが、フェティッシュ文化では薄手・光沢系をラテックス、厚手・マット系をラバーとして区別する慣行がある。
歴史
ラテックスを衣装素材として性的に取り扱う文化は、1950-60 年代の英国で本格的に立ち上がった。ジョン・サトクリフ(John Sutcliffe, 1925-1987)は 1957 年にロンドンで衣装ブランド「AtomAge」を創業し、ラテックス・PVC を素材とするキャットスーツ・コルセット・全身カバーを製作した。同社は雑誌『AtomAge』(1972-80)を発行し、ラテックス・フェティッシュ文化のビジュアル基盤を築いた。
並行して、テレビドラマ『The Avengers』(1961-69)でダイアナ・リッグが演じたエマ・ピール役のキャットスーツが、ラテックス様の光沢素材として大衆の視覚に焼き付き、フェティッシュ趣味と一般文化の境界に橋を架けた。
1990 年代以降、ヴィヴィアン・ウェストウッド、ジャン=ポール・ゴルチエらがラテックスをファッションに導入し、フェティッシュ素材としての位置と高級ファッション素材としての位置の両義性が確立した。映画では『キャットウーマン』(1992)『マトリックス』(1999)『キル・ビル』(2003)など、ラテックス様素材が「強い女・近未来・サブカルチャー」の記号として頻用されている。
日本では 2000 年代以降、欧州製ラテックス衣装の輸入とコスプレ用素材の国内製造が並行して進み、専門店・通販を通じて一定の市場が形成された。アダルト領域ではSM系・コスプレ系・特殊衣装系の中で素材として登場する。
嗜好の構造
ラテックスが他の衣装素材と異なる嗜好的位置を占める要素は四点ある。第一に「光沢」で、研磨後の表面が鏡面化し、装着者が光源そのもののような視覚効果を持つ。第二に「密着」で、伸縮素材が身体形態を写し取り、衣装と身体の間に空気層がほぼ存在しない。第三に「匂い」で、天然ゴム特有の匂いが装着空間に充満し、嗅覚刺激として機能する。第四に「装着の困難さ」で、研磨剤・粉・潤滑剤を用いて十数分かけて装着する儀式性が、衣装そのものへの愛着を強化する。
受け手の心理は素材そのものへの感覚的傾倒(フェティッシュの本来的形態)と、装着者の「人形化」「物質化」への嗜好に分かれる。後者はSM・拘束系・全身タイツと接続し、ラテックスは身体を物体に変換する素材として機能する。
派生形態
- ラテックス・キャットスーツ:首から下を覆う標準型
- ラテックス・ドレス:タイトドレス型
- ラテックス・コルセット:絞り強調型
- ラテックス・全身覆い(ゼンタイ):頭部含む完全密封
- ラテックス・ブーツ:長靴型
- ラテックス・手袋:腕を覆うオペラ・ロング
- ラテックス・マスク:顔面のみ
- ラテックス・拘束袋:拘束兼用
- ヴァキューム・ベッド:ラテックスシートで身体を真空密封
文化的言及
英国ロンドンには「ラバー・スカム」と呼ばれる愛好家コミュニティが存在し、毎年「LRC ナイト」「ラバー・ボール」などのイベントが開催されている。ベルリン・アムステルダムなど欧州各地に同様のコミュニティが分散し、ラテックス衣装は単なる性的嗜好を超えた一つのサブカルチャー領域を形成している。
国際的に著名なラテックス衣装ブランドには英国の Atsuko Kudo(日本人デザイナー、レディー・ガガが採用)、Westward Bound、ベルリンの Murray and Vern、ロサンゼルスの Syren などがあり、いずれも欧米圏で生産されるオーダーメイド製品が中心である。日本ではコスプレ用の素材として中国・東南アジア製の輸入品が広く流通する。商業 AV では純粋なラテックス衣装作品は欧米輸入物が中心で、国内製作はSMレーベルでの限定的な使用にとどまる。
関連項目
最終更新
「ラテックスフェチ」の動画作品
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参考文献
- 『Fetish: Fashion, Sex and Power』 Oxford University Press (1996) — ラテックス・ファッションの章を含む
- 『Rubber: Fashion, Identity and Style』 Bloomsbury (2018)
- 『AtomAge magazine archives』 (1972-1980) — 英国ラテックス・フェティッシュ雑誌の元祖
- 『ジャンル別 AV 大全』 コアマガジン (2014)
別名
- ラテックス
- latex fetish
- latex
- ラテックススーツ
- ラテックスファッション