英国エセックスの実業家が父親から借りた 1 万ポンドで 2016 年に立ち上げたサービスが、わずか 7 年で年商 60 億ドル超の国際プラットフォームへと成長した。OnlyFans は、個人クリエイターとファンが直接接続する購読制モデルの世界的代表格として、2020 年代の成人向けクリエイターエコノミーを定義し直した。
OnlyFans(おんりーふぁんず、OF)は、英国 Fenix International Ltd. が運営する国際ファンクラブ型コンテンツ販売プラットフォームである。クリエイターが個人で写真・動画・ライブ配信を販売し、月額購読制(サブスクリプション)のファンクラブを運営できる仕組みを提供する。2016 年に英国の起業家 Tim Stokely(ティム・ストークリー)が設立、2018 年に Leonid Radvinsky(レオニード・ラドヴィンスキー)が過半株式を取得して以降に急成長を遂げ、2020 年代に国際成人向けクリエイターエコノミーの代表格となった。本項では創業経緯、成長過程、ビジネスモデル、業界的位置づけ、日本のmyfansとの対比を扱う。
概要
OnlyFans の中核機能は、(1) クリエイター(コンテンツ販売者)による独立アカウントの運用、(2) ファン(購読者)による月額購読(サブスクリプション)による限定投稿閲覧、(3) 単発販売(pay-per-view、PPV)による個別投稿の購入、(4) チップ(tip)による支援、(5) DM 機能・ライブ配信機能等のクリエイター・ファン間相互交流、にある。
成人向け・非成人向けの双方のコンテンツが取り扱われるが、特に成人向けコンテンツが市場の中核を占める状況が成立している。フィットネスインストラクター・ミュージシャン・料理研究家等の非成人向けクリエイターも一定数活動するが、市場規模・売上の中核は成人向けコンテンツが担っている 要出典。
クリエイターはサブスクリプション料金を £4.99–£49.99 程度の範囲で設定可能で、プラットフォーム側は売上の 20% を手数料として徴収するビジネスモデルを取る。Tim Stokely の創業以来当該手数料率が維持されており、競合プラットフォームの参入要因の一つともなっている。
創業と成長
創業期(2016–2017)
OnlyFans は 2016 年に英国エセックスの起業家 Tim Stokely(1983 年生)が創業した。父親 Guy Stokely からの 10,000 ポンドの融資を元手にロンドンで Fenix International Ltd. を立ち上げ、サブスクリプション型コンテンツ販売プラットフォームとして開発・公開された。創業当初は家族経営で、Tim の弟 Tom Stokely が COO、父 Guy が CFO として参画した。
創業時の構想は、(1) コンテンツクリエイター(成人向けに限らず)とファンを直接接続するサブスクリプション型プラットフォーム、(2) 中間流通業者を排除した直販モデル、(3) クリエイターによる料金設定の自由度確保、にあった。当該構想は、Patreon(2013 年創業)等の同種プラットフォームの拡張版として位置づけられる。
Radvinsky による買収と急成長(2018–2020)
OnlyFans の歴史的転換点は、2018 年にウクライナ系米国人投資家 Leonid Radvinsky(レオニード・ラドヴィンスキー)が Fenix International Ltd. の 75% 株式を取得した時点にある。Radvinsky は MyFreeCams 等の成人向けライブストリーミング業界で経験を積んだ起業家で、当該取得後に OnlyFans の経営戦略・成長戦略を抜本的に再設計した。
2020 年 7 月時点で、OnlyFans は登録ユーザー 5,000 万人、登録クリエイター 66 万人に達していた。新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う在宅時間の急増、伝統的成人向け業界の構造変化、個人クリエイター直販モデルへの社会的関心の高まり等が、当該成長を加速した複合要因として作用した。
国際的拡大とメインストリーム化(2020–2023)
2020 年から 2023 年にかけて、OnlyFans は国際的な成人向けクリエイターエコノミーの代表格として認知される位置を確立した。Lily Allen(英国歌手)、Cardi B(米国ラッパー)、Bella Thorne(米国俳優)等の有名人の参入が報じられ、メインストリーム文化への浸透が加速した。
2021 年 8 月、OnlyFans は決済代行会社・銀行からの圧力を理由に「成人向けコンテンツ禁止」を一時発表したが、クリエイター・ユーザーの強い反発を受けて 1 週間以内に方針撤回した。当該事件は、OnlyFans のビジネスモデルが成人向けコンテンツに依存する構造を国際的に可視化した契機として記憶されている。
2023 年 11 月時点での OnlyFans の年間売上は 66 億ドル超とされ、年成長率 19% を維持していると報じられている 要出典。
Tim Stokely の退任と Radvinsky 体制(2021 以降)
2021 年 12 月、Tim Stokely は OnlyFans CEO の職を退任した。退任理由について複数の説明があるが、決済代行会社・銀行・クレジットカード会社からの継続的圧力下での経営判断との関連が指摘される。退任後の OnlyFans は、Amrapali Gan(後に Keily Blair)等の経営陣のもとで運営されたが、最終的な株主・実質的な経営支配は Radvinsky が継続して保持している。
ビジネスモデル
サブスクリプション制
OnlyFans の主たる収益モデルは、クリエイターによるサブスクリプション設定とファンの月額購読である。クリエイターはサブスクリプション料金を £4.99–£49.99 の範囲で自由に設定でき、ファンは月額制で限定コンテンツへのアクセスを得る。プラットフォームは売上の 20% を手数料として徴収し、80% がクリエイターに支払われる。
サブスクリプション以外の収益源として、(a) pay-per-view(PPV、単発投稿の都度購入)、(b) チップ(tip)による任意支援、(c) DM 内有料投稿、(d) ライブ配信での投げ銭、等がある。これら全てに対して同 20% の手数料が適用される。
コンテンツ取り扱い
OnlyFans はサービス利用規約に基づくコンテンツ基準を運用している。許容される主たる範囲は、(1) 成人向けの合意ある成人間のコンテンツ、(2) 非成人向けの趣味・教育・ライフスタイル系コンテンツ、(3) アスリート・ミュージシャン・料理研究家等の専門領域コンテンツ、にある。禁止コンテンツとしては、未成年関連、非合意関連、暴力的・違法行為関連、知的財産権侵害関連等が利用規約で明示されている。
決済代行会社(Mastercard、Visa)、銀行、規制当局の継続的な圧力下で、OnlyFans のコンテンツ基準は流動的に運用されており、過去にも 2021 年の方針変更撤回等の事例がある。
クリエイター層
OnlyFans のクリエイター層は、(1) 元プロフェッショナル成人向け業界参加者、(2) 個人ブランド志向の成人向けクリエイター、(3) ソーシャルメディアインフルエンサーの派生展開、(4) 非成人向け専門領域クリエイター、(5) 短期収益を狙う一般参加者、と多様である。
特に注目される現象として、伝統的成人向け業界の女優・モデルが OnlyFans 直販へ移行する事例、ソーシャルメディアでフォロワー基盤を持つインフルエンサーの参入事例、新型コロナウイルス感染症のパンデミック期に職を失った労働者の参入事例等が報じられている 要出典。
国際的位置と論争
成人向け業界への影響
OnlyFans は、伝統的成人向け業界(commercial adult industry)の構造に大きな影響を与えた。プロダクション・レーベル・ディストリビューターを経由する伝統的流通モデルから、個人クリエイター直販モデルへの構造的移行が、2010 年代後半から 2020 年代を通じて加速した。
当該移行は、(1) クリエイター側の収入構造の変化(コンテンツ単発販売 → 月額購読収入)、(2) ファン側の消費パターンの変化(都度購入 → 関係性継続課金)、(3) プラットフォーム側の市場構造変化(分散型市場 → 集約型プラットフォーム)、を同時に引き起こした。
規制環境との関係
OnlyFans は、英国法令、国際クレジットカード会社基準、各国コンテンツ規制、決済代行会社基準、銀行基準等の複合的規制環境下で運用される。2021 年の成人向けコンテンツ禁止方針の発表と即時撤回は、当該規制環境の流動性を国際的に可視化した事例である。
特に米国においては、FOSTA-SESTA 法(2018)等の成人向けコンテンツ関連立法、決済処理会社の方針変更等が、OnlyFans のビジネス継続性に影響する規制要因として継続的に作用している 要出典。
労働・倫理的論争
OnlyFans は、成人向けクリエイターの労働条件・自己決定・権利保護等の論点で継続的論争の対象となっている。批判側は、(1) 経済的困窮を背景とする参入者の搾取的状況、(2) コンテンツの違法二次拡散による被害、(3) 未成年混入リスク、(4) 個人情報・本人特定リスク等を主要論点として提示する。
支持側は、(a) クリエイターの自己決定の尊重、(b) 中間業者を経ない直接収益、(c) 物理的安全性の確保、(d) 柔軟な労働形態、を主要利点として提示する。両論の対立は、現代の成人向け労働政策・プラットフォーム規制論議の中核論点として継続している。
サイトとしては、特定の立場を取らず現状を中立的に記述する方針を取る。
Radvinsky の役割
Leonid Radvinsky(1981–2026)は、OnlyFans の急成長期の戦略的経営者として国際メディアでも繰り返し論じられてきた人物である。MyFreeCams 等の成人向けライブストリーミング業界での経験、OnlyFans 経営での 75% 株式所有による実質的支配、年間配当による莫大な個人収入(2023 年期で 4 億ドル超と報じられる)等が、当該人物の業界的影響力を示す主要事項として記録されている。2026 年 3 月、Radvinsky は癌により死去したと報じられた 要出典。
日本市場との対比
myfans との対比
日本のmyfans(2021 年サービス開始、トクネコ株式会社運営)は、OnlyFans に対応する国内プラットフォームの一つとして位置づけられる。両プラットフォームの主要差異は、(a) 運営拠点(英国 vs 日本)、(b) 適用法令(英国法 vs 日本国内法)、(c) 言語(英語中心 vs 日本語のみ)、(d) 決済通貨(USD/GBP vs JPY)、(e) 国際的ファン基盤(あり vs 国内中心)、にある。
日本のクリエイターにとって、(1) OnlyFans は国際ファン基盤・英語圏マーケットへのアクセス、(2) myfans は国内銀行直接振込・日本語サポート・国内法適合運用、を各々利点として提供する。両プラットフォームの並行運用、国内プラットフォームのみの運用、国際プラットフォームのみの運用等、クリエイターごとの戦略選択がある。
日本での認知と利用
OnlyFans は日本国内でも一定の認知を獲得している。日本人クリエイターによる OnlyFans 活動、日本のサブカルアイコン(VTuber・コスプレイヤー・グラビアモデル等)の OnlyFans 進出事例が一部報じられているが、日本語サポートの欠如・国際決済の障壁等から、日本国内市場での主流プラットフォームには至っていない 要出典。
競合プラットフォーム
OnlyFans の国際的競合として、Fansly、JustForFans、ManyVids、AVN Stars、Fanvue 等のプラットフォームが並存する。各プラットフォームは、(a) 手数料率、(b) コンテンツ基準、(c) 決済対応、(d) 機能差、(e) クリエイター・ユーザー層、に応じた差別化を図っている。
文化的言及
クリエイターエコノミーの転換点
OnlyFans の急成長は、2010 年代後半から 2020 年代の個人クリエイターエコノミー(creator economy)の構造的発達における代表的事例として論じられている。Patreon・Substack・YouTube パートナープログラム・Twitch サブスクリプション等と並ぶ、個人クリエイター直販モデルの国際的標準化を加速した契機の一つとして位置づけられる。
成人向けコンテンツの文脈に限定すれば、OnlyFans は伝統的成人向け業界の構造を「メーカー主導の集約型市場」から「個人クリエイター主導の分散型市場」へと転換させる長期的構造変化の象徴的事例として理解されうる 要出典。
メインストリーム文化への浸透
有名人クリエイターの参入、ニュースメディアでの継続的報道、政治家・社会運動家の論争主題化等を通じて、OnlyFans は 2020 年代の国際的なメインストリーム文化に浸透した。当該浸透は、成人向けコンテンツ・労働の社会的可視化・脱スティグマ化の文脈で論じられる主題である。
学術研究との接続
OnlyFans を主要事例とするクリエイターエコノミー研究、プラットフォーム資本主義研究、デジタル労働研究、ジェンダー・セクシュアリティ研究等が、2020 年代以降に国際的に蓄積している。OnlyFans の経営戦略・市場構造・労働形態・倫理的論点は、複数学問領域を横断する研究主題群として今後の発展が期待される。
関連項目
最終更新
参考文献
- 『How a £10K Loan Built OnlyFans Into an $8 Billion Giant』 European Business Magazine (2024) — OnlyFans の創業経緯と成長 https://europeanbusinessmagazine.com/the-onlyfans-empire-from-a-10000-loan-to-an-8-billion-phenomenon/
- 『Was OnlyFans Mogul Leo Radvinsky the Mark Zuckerberg of the Online Porn Industry?』 Hollywood Reporter (2024) — Radvinsky の役割と OnlyFans の業界的位置 https://www.hollywoodreporter.com/news/general-news/onlyfans-ceo-leo-radvinsky-zuckerberg-of-porn-1236548140/
- 『The Visionaries behind OnlyFans』 Founders Today — Tim Stokely の創業経緯 https://www.founderstoday.news/the-visionaries-behind-onlyfans/
- 『コンテンツ産業論──混淆と伝播の日本型モデル』 ミネルヴァ書房 (2009)
別名
- OF
- オンリーファンズ
- onlyfans.com