着物の襟がふっと落ち、白い肩が見える。タンクトップの肩紐が滑り落ちる。シャツのボタンを外したときに鎖骨と一緒に覗く肩のライン。肩は、人体の中で性器や胸・尻のような直接的な性的記号ではないが、衣装と素肌の境界を画す部位として、独立した魅力の源泉となってきた。視線の停留点としての肩の地位は、日本文化において特に強い。
肩(かた)とは、首と腕を繋ぐ上半身の境界部位を指す。解剖学的には肩関節(肩甲骨・上腕骨・鎖骨で構成)を中心とし、僧帽筋・三角筋・大胸筋上部・棘上筋などが集まる領域である。骨格と筋肉の見え方が体型印象を強く決定し、なで肩・いかり肩の差は性別記号・体型記号として歴史的に意識されてきた身体表象である。
解剖
肩部は、骨格としては上肢帯(肩甲骨・鎖骨)と上腕骨頭で構成される。鎖骨の傾きと肩甲骨の位置が肩のラインを決定する。表層筋では僧帽筋上部が首から肩にかけて、三角筋が肩関節を覆って腕の外側に流れる。これらの筋肉量と脂肪量の比率により、肩の輪郭が決定する。
女性の肩は男性に比べて骨格的に小さく、僧帽筋の発達も穏やかで、結果として鎖骨から肩先にかけてのラインが緩やかな曲線を描く。男性の肩は鎖骨が水平に近く、僧帽筋・三角筋が発達して角張る。この性別差は思春期以降の性ホルモン分布の差により形成される。
なで肩といかり肩
肩のラインは個体差が大きく、日本語では「なで肩」「いかり肩」の二極で記述される。
なで肩は、首から肩にかけてのラインがなだらかに下る肩型を指す。鎖骨の傾きが大きく、僧帽筋上部の盛り上がりが穏やかで、肩先がやや下がって見える。日本の伝統的女性美の理想として、平安期の[要出典]女房装束、江戸期の浮世絵女性像、昭和初期の和装美人画で連綿と再生産されてきた肩型である。着物の襟元・肩線が美しく流れる体型として、和装文化と密接に結びつく。
いかり肩は、肩先が水平に近い、または上方に張り出した肩型を指す。鎖骨が水平に近く、僧帽筋・三角筋が発達して角張る。男性的な印象を伴うが、近代以降の洋装文化、特にスーツ・ジャケット文化との相性がよく、宝塚的な男装の麗人イメージ・キャリアウーマンの記号として独立した魅力を持つ。
なで肩は和装美の中核、いかり肩は洋装美の中核として、二者は相互に対比的な体型記号を成す。現代では両者の中間的な肩が標準とされ、極端ななで肩は猫背・骨格異常として、極端ないかり肩は男性的すぎる印象として、それぞれ美容矯正の対象となる場合もある。
性愛における肩
肩は直接的な性器ではないが、性愛の場で複数の機能を果たす。
第一に、衣装と肌の境界としての視覚記号。着物・タンクトップ・キャミソール・オフショルダーなど、肩を露出する服装は、肌の露出を限定的に許容する装置として性的緊張を生む。完全な裸体より、衣装と肌のコントラストが目線を集める構造を、肩は最もよく実装する。
第二に、抱擁における接触面。性愛の前段階・後段階において、肩への手の置き方は親密さの段階を示すシグナルとして機能する。肩を抱く・肩に頬を寄せる・肩に頭を預けるといった所作が、関係性の階梯を画す。
第三に、うなじ・背中との連続性。肩は単独で完結する部位ではなく、首・うなじ・背中・腕への流れとして読まれる。肩のラインの美しさは、隣接部位との連続性で決まる。
文化史
肩への美的関心は、日本では和装文化と密接に結びついてきた。着物のえもんを抜くと首・うなじとともに肩が露出し、これは江戸期以降の女性身体表現の中核モチーフとなった。喜多川歌麿の美人画における肩の描き方、浮世絵の入浴・身支度の構図はすべて肩のラインへの注目を含む。
明治以降の洋装化で、肩は新しい意味を獲得する。肩パッドの入った西洋ドレス・スーツは肩のラインを人工的に強調し、戦後のボディコンファッション、肩出しドレスのトレンドへと繋がる。アダルトコンテンツでは、入浴シーン・着替えシーン・着物着崩しシーンで肩の露出が定型的に強調される。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系』 医学書院 (2017)
- 『美の歴史』 東洋書林 (2005)
- 『日本人の体型』 岩波書店 (2010)
別名
- 肩部
- shoulder
- shoulder line