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夏季・冬季の同人誌即売会には数十万人規模の参加者が集まる。これは商業出版が捕捉しない領域の創作・流通を支える文化装置として機能する出版形態である。

同人誌(どうじんし)とは、共通の趣味・関心を有する者(同人)が、商業出版社の編集介入から相対的に独立した立場で自費編集・自費刊行する出版物の総称である。明治期の文芸同人誌を遠い源流とし、戦後の漫画文化、1975 年に始まるコミックマーケット、2000 年代のデジタル流通を経て、現在では年間流通点数で言えば日本国内の出版物の主要セクターを成す巨大な文化圏を形成している。本項では成人向け表現を含む同人誌の歴史と社会的位置づけを扱う。

概要

同人誌は、商業出版社の編集介入を経ずに、執筆者・編集者・流通者が同一あるいは近接した主体によって担われる出版形態を指す。発行部数は数十部から数千部規模が一般的であり、近年はデジタル流通の発達により電子版頒布も拡大している。

商業作品では掲載できない題材を扱う媒体としての機能が、同人誌の中核を成している。原作キャラクター同士の組み合わせ替えや性的場面、社会規範上の禁忌的関係性等は、商業出版の編集判断・契約上の制約により制作困難であり、これらを補完的に取り扱う出版形態として、同人誌は半世紀近くにわたり数十万人規模の制作者・受容者を結びつけてきた。

主要な頒布の場として、即売会(コミックマーケット、コミティア、各種ジャンル特化即売会)、同人誌専門書店(虎の穴・メロンブックス・らしんばん等)、オンライン同人プラットフォーム(DLsiteFANZA 同人、BOOTH、pixiv FANBOX 等)が挙げられる。成人向け表現を含む同人誌は、頒布会場および書店における年齢確認、ならびに「成人向け」「R-18」等の表示によって未成年者への流通防止が図られている。

語源

「同人」は漢籍由来の古語で、本来は「志を同じくする者」の意である。『易経』の同人卦の卦名に淵源を持つとされる。明治期、西欧文学の影響下に文芸結社が発達した際、共通の文学的志向を持つ者の集合体を「同人」と呼び、その機関誌を「同人誌」「同人雑誌」と称した。

歴史

明治・大正期(文芸同人誌の時代)

近代日本における同人誌の嚆矢としては、1885 年の硯友社『我楽多文庫』が広く知られる。続いて『白樺』(1910 年創刊、武者小路実篤、志賀直哉ら)、『青鞜』(1911 年創刊、平塚らいてうら)、『新思潮』(1907 年創刊、谷崎潤一郎、芥川龍之介ら)など、近代日本文学史の中核を担う作家・思想家の多くが同人誌を活動基盤とした。この時期の同人誌は文芸を中心とし、商業誌では発表困難な前衛的・実験的作品の発表媒体として機能した。

戦後(漫画同人誌の登場)

1950 年代以降、手塚治虫らによる戦後漫画の隆盛とともに、漫画を主たる内容とする同人誌が出現した。1950 年代後半の貸本漫画文化、ならびに 1960 年代の大学漫画研究会の活動が、漫画同人誌の制度的基盤を形成した。

1975 年、虎ノ門の小さな会議室から

1975 年 12 月 21 日、東京都港区虎ノ門の日本消防会館会議室にて、第 1 回コミックマーケットが開催された。サークル参加 32、来場者約 700 名という小規模な開催であった。同会の起源には漫画批評集団「迷宮」(米澤嘉博・霜月たかなか・原田央男ら)が関与し、当初は商業誌の編集圏外で漫画批評・創作を発表する場として構想されていた。それから半世紀近くを経た現在、コミックマーケットは数日間の開催で延べ数十万人規模の来場者を記録する世界最大級の同人誌即売会へと成長し、現在の二次創作・成人向け同人文化の制度的基盤となっている。

1980 年代以降、二次創作(既存の商業作品を素材とする創作)が同人誌の主要ジャンルの一つとして定着した。同時期、成人向け表現を含む二次創作も顕著な拡大を見せ、「アニパロ」「やおい」「百合」「BL」などのサブジャンルが順次形成された。原作キャラクターへの愛着・関心を、原作が示さない方向へと拡張する受容者主導の創作活動が、同人誌という出版形態を媒介に発達したものである。後年、これらの分野では寝取られ痴女巨乳といった主題類型・身体表象類型ごとのジャンル区分が定着し、現在の同人誌の検索タグ体系の骨格を成している。

成人向け同人誌の中核ジャンルとしては、人気商業作品(『新世紀エヴァンゲリオン』『ラブライブ!』『艦隊これくしょん』『FATE/Grand Order』『アイドルマスター』など、各時代の話題作)を素材とする二次創作群が反復的に台頭しており、商業作品のヒットと同人市場の盛衰は密接に連動してきた要出典。「アスカ本」「凛本」「島風本」のようにキャラクター名に「本」を付した呼称が、参加者間の共通語彙として機能する。商業原作の刊行点数を大きく上回る二次創作群が、各原作世界の周辺領域を継続的に補完する構造である。

デジタル化以降

2000 年代以降、インターネットの普及に伴い、同人誌の制作・流通の双方が劇的に変化した。pixiv(2007 年開設)などのオンライン投稿プラットフォーム、DLsite・FANZA 同人などの電子流通プラットフォームの発達により、紙媒体に依存しない同人活動が一般化した。

電子流通プラットフォーム上では「DL 同人」(電子書籍として頒布される同人誌)が独自の市場を形成し、2010 年代後半以降、紙の同人誌売上を上回るサークルも珍しくない状況となっている。即売会会場での購入を介さず、配信プラットフォーム経由でダウンロード購入する消費形態が主流化したことで、即売会と電子配信が併存する二重構造が現代の同人誌流通を特徴づけている要出典

派生形態

一次創作同人誌

執筆者自身の独自世界観に基づく作品を収録する同人誌。商業作家のキャリア初期における発表媒体として、また商業誌では扱いにくい主題・表現の発表媒体として、独自の機能を持ち続けている。

二次創作同人誌

既存の商業作品(漫画・アニメ・ゲーム)の登場人物・世界観を素材として再解釈・再構成する作品を収録する同人誌。原作内では実現されない人物関係(カップリング)の構築を主たる動機とする創作群が、二次創作という形式の中核を成している。後述するとおり、著作権上の論点を内包する。

評論・研究系同人誌

特定領域(漫画批評、ゲーム研究、技術解説、地誌・鉄道趣味等)に関する論考を収録する同人誌。学術的同人誌の系譜は明治期文芸同人誌に直接連なる。

成人向け同人誌

性表現を含む同人誌。一次創作・二次創作のいずれにも存在する。頒布の際は年齢確認および「成人向け」「R-18」「R-18G」(後者はゴア表現を含む)等の表示が義務的に行われる。中出しぶっかけ緊縛騎乗位などの主題タグが、検索体系上の主要分類として運用されている。原作キャラクターの人気度と成人向け二次創作の制作量の間には経験的な相関関係が観察され、特定キャラクターをめぐる二次創作の集中現象として論じられてきた要出典

文化的言及

著作権を巡る論点

二次創作同人誌は、原則として原著作物の著作権者の許諾を得ずに刊行されている。法的には著作権侵害の可能性を内包するが、慣行として権利者が黙認することにより流通が成立してきた。これは「黙認の経済」として論じられることがある。権利行使がファン層との関係を毀損する可能性を持つという制約のもとで、訴追と黙認の力学的均衡が長期間維持されてきた構造である。近年は、出版社が独自の二次創作ガイドラインを公開する事例(任天堂、コナミ、サイバーエージェント等)が増加しており、慣行の制度化が進行している。

産業との関係

同人活動と商業出版の往還は顕著であり、同人作家の商業デビュー、商業作家の同人活動という双方向の人材循環が常態化している。米澤嘉博らの研究によれば、同人文化は日本の漫画産業全体の人材供給源としても機能してきた。学生・アマチュア期に同人誌即売会で活動していた作家が、後に商業誌での連載を獲得する経歴的経路が業界内で標準的に観察されており、同人と商業を往還するキャリアパスは現代日本の漫画産業の制度的特徴の一つとされる。

海外への波及

2000 年代以降、英語圏を中心に同人誌の概念が doujinshi として知られるようになり、北米・欧州・東アジアにおいても類似の即売会形式の文化が成立している。台湾の Comic World Taiwan、米国の Anime Expo の同人スペース等がその代表例である。英語圏の海賊翻訳サイト群(scanlation コミュニティ)を通じて成人向け同人誌の英訳版が流通したことが、海外での日本サブカル成人表現の認知に大きな影響を与えた点も無視できない。

関連項目

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参考文献

  1. 竹内オサム 『戦後マンガ50年史』 筑摩書房 (1995)
  2. コミックマーケット準備会 編 『コミックマーケット30'sファイル』 青林工藝舎 (2005)
  3. Kinsella, Sharon 『Adult Manga: Culture and Power in Contemporary Japanese Society』 Curzon Press (2000)
  4. Galbraith, Patrick W. 『The Moé Manifesto: An Insider's Look at the Worlds of Manga, Anime, and Gaming』 Tuttle Publishing (2014)
  5. 『コミックマーケット年表』 コミックマーケット準備会 — What is the Comic Market?(公式 PDF) https://www.comiket.co.jp/info-a/WhatIsJpn202001.pdf
  6. 硯友社 『我楽多文庫』 (1885) — 近代日本における同人誌の嚆矢

別名

  • doujinshi
  • dōjinshi
  • 同人雑誌
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