色白を美の基準としてきた日本社会において、肌色の選好は文化的に積み重ねられた規範に縛られてきた。にもかかわらず、サブカル空間では別の系譜が独自に形成されてきた。日焼けで黒くなった夏の少女、混血のキャラクター、ファンタジー世界の褐色種族、南国育ちの先住民系キャラ。色の濃い肌は、白さの規範に収まらない異質性として、独自の魅力を構成してきた。
褐色肌(かっしょく、英: brown skin, tan skin)とは、白肌とも濃黒肌(きわめて濃い黒色肌)とも区別される、褐色から薄茶・濃茶に至る色調の肌色を指す。アダルト表現・アニメ・漫画・エロゲ領域では、特定の肌色を持つキャラクター属性を指す呼称として定型化しており、(1) 日焼けによる派生型(肌焼け)、(2) 人種的属性(混血・ハーフ・南方系)、(3) ファンタジー種族設定(ダークエルフ等)の三系統を含む包括概念として機能している。
概要
褐色肌の視覚的範囲は、明度値で言えば肌色(白人系・東アジア系)と濃黒肌(漆黒・濃色系)の中間領域を指す。具体的には、日焼け後の日本人の肌色から、東南アジア系・南アジア系・北アフリカ系・ラテン系等の人種的肌色、ファンタジー創作におけるダークエルフ・褐色族の肌色まで、幅広いスペクトラムが含まれる。
黒ギャルが「日焼けないし化粧で肌を極端に黒く見せる女性のギャル類型」を指すのに対し、褐色肌はギャル文化と直接結びつかない、より広い肌色そのものの嗜好を指す。両者は重畳する領域を持つが、褐色肌はギャル属性を必須としない点で機能的に区別される。
サブカル空間における褐色キャラクターは、(a) 髪色とのコントラスト、(b) 服装色とのコントラスト、(c) 肌色そのものの存在感、の三要素から視覚的アイデンティティを獲得する。白髪・銀髪・金髪との組み合わせが特に好まれ、肌の暗さと髪の明るさのコントラストが定型化したビジュアル様式となっている。
三系統の褐色肌
日焼け派生系
日焼けによる肌色変化を表現する派生形態。日本人の元来の肌色から、夏季の海・プール・南国旅行等を経て褐色化した肌を志向する系統である。黒ギャル・サーファーガール・部活少女(陸上部・テニス部等)・健康的な小麦色肌・南国少女等のキャラ造形と接続する。
サブジャンルとしての「日焼け跡」は、水着の形状に肌色が残る現象を強調する派生で、夏季・水着回の同人誌・エロマンガにおける定番演出として機能する。日焼け跡そのものをフェチ的視覚として消費する作品群が継続的に流通している。
人種・国籍系
混血(ハーフ・クォーター)、外国人キャラクター、南方系民族の褐色肌を表現する系統。アダルトビデオ業界における「ハーフ女優」「外国人女優」のジャンルや、漫画・アニメにおける南方系・南米系・中東系・東南アジア系キャラクターの造形がこれに該当する。
日本のアダルト表現における人種・国籍系褐色キャラの位置づけは、複雑な歴史的背景を持つ。日本人キャラとは異なる「異国情緒」「エキゾチック」というオリエンタリスム的フレームで消費される傾向が指摘される一方、実在する多様な人種・国籍の人々を一様に類型化することの問題性も論じられている要出典。
ファンタジー種族系
ファンタジー創作におけるダークエルフ・ダークドワーフ・南国精霊・砂漠族・褐色獣人等の架空種族における肌色設定。現実の人種・民族とは独立した、ファンタジー設定独自の褐色キャラ造形である。
ダークエルフは、Dungeons & Dragons(1974 年初版)等の欧米 TRPG における設定が起源とされ、日本の創作界には 1980 年代以降のファンタジー小説・TRPG 受容を通じて流入した。当初は「邪悪なエルフ」「ダークサイドのエルフ」として悪役的位置づけが与えられたが、1990 年代以降の美少女文化との融合を経て、「黒い肌・銀白の長髪・赤ないし金色の瞳」を持つ美少女・美女キャラ類型として再構築された。水野良『ロードス島戦記』(1988 年連載開始)におけるダークエルフ・ピロテースの造形が、日本のサブカル領域における褐色エルフの原型として位置づけられる議論がある要出典。
近年のラノベ・エロゲ・同人創作における褐色ファンタジーキャラは、現実の人種・民族との対応を意図的に曖昧化することで、ステレオタイプ化を回避する設計が一般化している。青・赤・金・銀等の非現実的肌色や、明確な架空種族設定との組み合わせが、人種的解釈を切断する装置として機能している要出典。
受容心理
褐色肌嗜好の核として、しばしば「規範からの逸脱」と「視覚的コントラスト」の二軸が論じられる。
色白を美の基準とする日本社会の伝統的規範に対する反逆的記号性は、黒ギャルで論じられる主題と共通する。色白規範からの距離が、褐色肌キャラクターに「規範外の魅力」「異質さの記号」を付与する。同時に、肌色の暗さは「健康的」「活発」「外向的」という人格属性の連想を伴うことが多く、白肌キャラ(「上品」「清楚」「内向的」)との対比的キャラクター付与が定型化している。
視覚的コントラストの効果は、表現論的に重要な要素である。褐色の肌に対する明るい毛髪(白・銀・金)、明るい衣装、明るい背景といった対比は、画面構成の中で褐色キャラを際立たせる。同様に、褐色の肌から覗く下着の白さ、汗の光沢、唾液の光沢といった光学的対比は、性的記号として様式化されている要出典。
ファンタジー領域における褐色キャラの位置づけは、現実の人種・民族表象から独立した「想像力の自由な戯れ」を可能にする装置として論じられる。現実の人種を直接表象することへの政治的緊張を回避しつつ、肌色の多様性を視覚的に楽しむ場として、ファンタジー褐色キャラは独自の機能を担っている。
派生形態
ハーフ・クォーター系
混血設定のキャラクター。日本人と外国人(典型的には欧米人・南米人・東南アジア人等)の混血として設定され、日本人キャラとも純粋な外国人キャラとも異なる中間的造形を取る。日本社会における混血表象の歴史的経緯と密接に関わるカテゴリで、近年は表象上のステレオタイプ批判の対象となる文脈も含む。
南国・島系
沖縄・離島・東南アジア・南米・カリブ等の南国・島嶼設定の褐色キャラ。陽射しの強い気候による日焼け、開放的な人格、自然との親密性等の人格・環境設定とセットで様式化される。アダルトビデオにおける「南国ロケ」企画のヒロイン造形と接続する系列でもある。
ダークエルフ・褐色種族系
ファンタジー創作における褐色種族のキャラクター。前述の通り欧米 TRPG 起源の設定が日本のサブカル空間で再構築された系列で、1990 年代以降のエロゲ・同人二次創作で確固たるカテゴリを形成している。
褐色 人妻系
成熟した褐色肌女性を対象に据える派生形態。日焼け系の元ギャル世代、外国人妻、南方系移民キャラ等を含む。AV ジャンルにおける「ハーフ妻」「外国人妻」「元ギャル人妻」の系譜と接続する。
文化的言及
日本の伝統美意識における色白規範は、平安時代の貴族文化に遡る歴史を持つ。「白魚のような肌」「玉の肌」といった慣用表現は、白さを美の核心とする規範を反映する。江戸時代以降の浮世絵・春画においても、白肌の描写が美人画の標準であり続けた。
褐色肌の美的評価が日本のサブカル空間で独立した位置を獲得したのは、戦後のサーフィン文化・南国憧憬・外国文化受容を経て、1970-80 年代の「健康美」「小麦色肌」評価が成立して以降と考えられる。1990 年代の黒ギャル文化、2000 年代以降のサブカル空間における褐色キャラ定着は、こうした戦後の肌色評価の多様化の延長線上に位置づけられる要出典。
国際的な「肌色の政治学」との関係では、日本のアダルト表現における人種系褐色キャラ(特に黒人女性)の表象は、欧米の人種ステレオタイプ批判の文脈と接続する。一方、ファンタジー種族系の褐色キャラは、現実の人種から切断された創作カテゴリとして、別個の議論枠組みで論じられる傾向がある。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『美少女キャラクターの萌え文化』 講談社現代新書 (2001)
- 『ダークエルフの図像学』 幻想小説研究 (2015) — ダークエルフの肌色設定の文学史
- 『アダルトビデオ革命史』 幻冬舎新書 (2009)
別名
- 褐色
- 褐色キャラ
- 浅黒い肌
- tan skin
- brown skin