ベッドではない場所、横になる時間も気力もない場面、机の角・壁・玄関の框・更衣室の鏡。立ったままの体位は、寝室の儀式的な性愛から最も遠いところで成立する。両者の体重がそれぞれ二本の脚で支えられ、抱き合うか掴まり合うかでしか姿勢が保てない。重力が常に身体を引き下げ、行為時間は他の体位より短くなる傾向にある。しかしその時間的制約と空間的緊張こそが、立位を独立した体位として、寝た体位の代用品ではなく独自の選択肢として成立させてきた。立位(りつい、英: standing position)とは、両者が立ったままで行う性交体位の総称である。
語源と定義
「立位」は「立った姿勢」を意味する漢語で、医学・体育・舞踊の分野でも同じ語が用いられる。古代インド『カーマ・スートラ』(4 世紀頃)では sthitarata(スティタラタ、立位)として独立した分類項目を持ち、平安期日本の『医心方』(984 年、丹波康頼)房内篇でも立位の記述がある。
狭義には対面型の立ち正常位を指す場合もあるが、広義には両者が立った姿勢を取る全ての体位を含む。代表的派生として、対面型(両者が向かい合う立位)、背面型(立ちバック)、抱え型(駅弁)、片足上げ型(片方の脚を支える)、壁掛け型(背中を壁に押し付ける)などがある。
歴史
立位は世界最古の性交体位の一つで、古代インド・中国・地中海世界の性愛文献にいずれも記述がある。ヘロドトス『歴史』には古代エジプトの公衆衛生に関する記述で「家畜を立った姿勢で交配させる」観察があり、人間の性交体位の議論との対比で言及されることがある。
中国の房中術文献、特に『素女経』『玄女経』(後漢-唐代)では立位は明示的な分類項目を持たないが、立ち姿勢での性交の記述は散見される。日本の『医心方』房内篇は中国房中術を継承する書で、立った姿勢での体位を「立たせて行う」と記述している。
近代以降、立位は他の体位と比較して扱いが少ない。これは寝室での性愛が中心となった近代家族規範に起因する。一方で、日活ロマンポルノ・成人映画では立位が「日常空間の中の性」を描く表現として頻繁に使われた。1990 年代以降の AV では立ちバック・駅弁が独立した派生体位として分化し、それぞれの作品ジャンルが形成された。
解剖学的特性
立位は解剖学的に四つの特性を持つ。第一に「身長差の影響」で、両者の身長差が大きいと挿入が困難になり、片方が背伸びをするか、台に乗るか、壁に支えられる必要がある。一般的に身長差が 5-15 cm 以内で対面型立位が成立しやすい。第二に「重力との関係」で、被挿入側の体液は重力に従って下方に流れ、挿入維持のための筋力が他体位より要求される。第三に「持続時間の制約」で、両者が脚で体重を支えるため筋疲労が早く、長時間の行為に適さない。第四に「視線の対称性」で、対面型立位では両者の顔が同じ高さに来るため(身長差が小さい場合)、視線・接吻が容易である。
派生形態
- 立ち正常位 — 対面型立位の代表
- 立ちバック — 背面型立位
- 立位対面位 — より特化した対面立位
- 駅弁 — 抱え上げ型
- 壁プレス型:背中を壁に押し付ける
- 片足上げ型:片方の脚を椅子等に乗せる
- 鏡前立位:鏡を見ながら
- お風呂立位:浴室内で湯気の中
- 玄関立位:帰宅直後の即興型
文化的言及
立位は AV・成人映像の中で「日常空間での性」「即興性」「我慢できなさ」を表現する装置として頻用される。寝室に至らない・至れない状況設定(玄関・廊下・キッチン・トイレ・ホテルの入室直後)で立位が選択される展開は、物語の緊張を視覚化する定型手法となっている。
世界的にも立位は「standing position」「standing sex」として独立した検索対象となり、欧米のアダルト分類でも一定の作品数を持つ。空間的制約のあるシチュエーション(更衣室、エレベーター、車内、店舗のバックヤード等)を舞台とする作品では、ほぼ必然的に立位が中心体位となる。
関連項目
最終更新
参考文献
- 『Kāmasūtra』 (c. 4th century CE) — 古代インド性愛論書、立位を含む体位分類
- 『医心方 巻第二十八「房内篇」』 (984) — 平安期日本医学書、房中術の章
- 『性交体位の体系』 青弓社 (2002)
- 『Sexual Behavior in the Human Male』 W. B. Saunders (1948)
別名
- 立った体位
- 立ちセックス
- upright position
- standing sex