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山中で薪を背に負って下る樵の姿。その所作の名残を、江戸の絵師は閨房の立位に重ねた。

杣人(そまびと)とは、四十八手における立位系の派生体位の一つで、挿入側が被挿入側を背負うように抱え上げて結合する形態を指す。山中の樵(きこり、杣人)が薪・木材を背負って山を下る姿に擬えた命名で、江戸艶本における職業意匠を借用した文芸的命名の代表例である。立位応用体位の系譜に属し、駅弁体位の前史的位置を占める可能性のある古典的体位名である。

概要

杣人は、挿入側が立った姿勢で被挿入側を背中ないしの上に抱え上げ、被挿入側が挿入側に背中側からしがみつく姿勢を取って結合する立位体位である。被挿入側が挿入側の背に抱きつき、両脚を挿入側の腰回りに巻きつけ、挿入側が両手で被挿入側の腿・臀部を支える基本構造を成す。基本となる立位対面型・駅弁体位とは異なり、両者の身体軸が同じ方向を向く背面型の立位である点に特徴がある。

四十八手の体位群のうち、立位系は屋外・廊下・縁側など非定型的な場面に配されることが多く、杣人もその系譜に属する。山中の樵が木材を背負って山道を下る労働の所作という、江戸庶民にとって馴染み深い職業意匠が、立位の交わりの名として転用されている。江戸艶本における職業意匠の借用は、「駕籠かき」「飛脚」「樵(杣人)」「漁師」「相撲取り」など複数の例があり、近世日本の労働風景が艶本の命名素材として広く活用されていたことを示す要出典

身体運動上、杣人は挿入側の体力を要する難姿勢であり、被挿入側を体重を全面的に支えつつ結合運動を行う構造的負荷が高い。長時間の維持は困難で、現実の閨房においては短時間の応用形として用いられることが想定される。江戸艶本の図譜では、屋外・山中・川辺など非日常的な場面に配されることが多く、即興的・偶発的な交わりの画題として展開した。

語源

「杣人」(そまびと、そまうど)は、本来、山中で木を伐採し、木材を運搬する職業従事者を指す古語である。「杣」(そま)は山林・木材・伐採地の意で、奈良・平安期から記録に現れる古い語彙で、「杣山」(そまやま、伐採地)、「杣木」(そまぎ、伐採した木材)などの複合語を成す。「杣人」は杣山で働く者の意で、樵(きこり)とほぼ同義の労働者を指す。

近世日本においては、杣人・樵の労働は山林経営・建築用材供給の中核的職業であり、各地の山林で生産された木材は河川を通じて江戸・大坂などの都市に運搬された。杣人の所作は、山中で木を伐り、薪・板材に加工し、それを背に負って山を下り、河川に流すまでの一連の重労働を含む。背に重い荷を負って急峻な山道を下る姿は、近世日本の労働風景の象徴的な一場面として、絵画・俳諧・川柳に頻繁に取り上げられた。

四十八手における杣人の名は、こうした樵の労働の所作を、立位で被挿入側を背に負う体位に擬えた命名である。「背負う」という所作の同型性が、職業労働と性愛体位とを類比する命名の核を成す。江戸艶本における職業意匠借用の系譜のなかで、杣人は山仕事という重労働の所作を性愛に転用する命名の代表例である。

近世の俳諧・川柳・絵画において、杣人は「山の労働者」の象徴として頻出する画題であり、葛飾北斎『北斎漫画』、歌川広重の各種風景画にも杣人の労働風景が描かれている要出典。江戸艶本の杣人の体位名は、こうした視覚文化の素地のうえに成立した命名である。

英語圏には対応する体位名はなく、現代の英訳では woodcutter position あるいは somabito のような訳語・音写が用いられる場合があるが、近世日本の労働文化に強く依拠する語であるため、厳密な対応訳は成立しない。

歴史

江戸艶本における成立

杣人の名は、江戸期の艶本に断続的に現れる体位名で、立位応用形の一例として位置づけられる。林美一『江戸艶本研究』は、職業意匠を借用した体位名群が四十八手の文芸的命名意識の代表例であることを論じている要出典

江戸艶本における立位の体位は数が限られており、寝具上の交わりが体位群の主流を占める。立位は屋外・廊下・縁側といった非定型的な場面に配されることが多く、杣人の名もそうした「特別な場での交わり」「偶発的な交わり」の画題として機能した。山中・河原・畑中など、職業労働の場における即興的な交合を視覚化する画題として、杣人は艶本の物語性を支える命名の一つだった。

駅弁体位との関係

杣人の体位は、近代以降の駅弁体位と運動学的に密接な関係を持つ。駅弁体位は、挿入側が被挿入側を抱え上げて結合する立位応用形で、20 世紀後半以降に「駅弁」の名で広く流通した。駅弁体位が対面型の抱え上げを基本とするのに対し、杣人は背面型の背負いを基本とする点で運動学的に区別されるが、両者は「立位で被挿入側を支え上げる」という共通の構造を持つ。

杣人を駅弁体位の前史として位置づける見解もありうる要出典。江戸艶本における杣人の画題が、近代以降の駅弁体位の流通と直接的に接続するわけではないが、立位応用体位における「抱え上げ・背負い」の運動学的構造は、近世から現代に至るまで連続する性愛表現の一系譜を成す。

浮世絵師の作例

歌川国貞・歌川豊国らの艶本群においては、立位背面型の結合構図が散見される。屋外の場面で挿入側が被挿入側を背に負って結合する画題は、必ずしも「杣人」の固有名で銘記されるわけではないが、運動学的に杣人と同型の構図として読みうる。江戸艶本の固有名と図像との対応は厳密ではなく、刊本ごとに名称の運用に揺れがある。

葛飾北斎の艶本にも、立位応用の特殊体位が描かれる例があり、これらは杣人系の命名と関連する可能性がある。北斎の画風は身体配置の幾何学的構成を強調する傾向があり、立位の難姿勢を画面に組み込む構図的工夫が随所に見られる。

近代以降の縁辺化

明治期以降の出版統制と職業構造の変化(山林労働の機械化、杣人という職業の消滅)のなかで、杣人の名は古書市場と一部の好事家・春画研究者の領域に縁辺化した。近代の性愛指南書において、杣人の名が独立に取り上げられることは稀で、四十八手系艶本の総覧的紹介において立位応用形として総括的に言及される程度に留まっている。

杣人という職業そのものが現代日本ではほぼ消滅したため、命名の本来意図を理解するためには近世労働史の知識を要する。これは、四十八手の固有名体位群が近世日本の生活文化と地続きの語彙体系として成立していたことの裏返しでもある。

形態と所作

基本姿勢

挿入側が立った姿勢で、被挿入側を背に負う。被挿入側は挿入側の背に正面から抱きつき、両腕を挿入側の首・に回して身体を支え、両脚を挿入側の腰の後ろに巻きつける。挿入側は両手で被挿入側の腿・臀部を支え、被挿入側の体重を腰と背で受け止める。

両者の身体軸は同じ方向を向き、被挿入側は挿入側の背中側に位置する。結合は背面型で、挿入側の男根は後方に屈折した状態で被挿入側に挿入される。この結合角度は、通常の対面立位とは異なる独自の運動学的特性を持つ。

結合と運動

結合の運動は、挿入側の腰の上下動と前後動を組み合わせる。被挿入側の身体が挿入側の腰の動きに従って揺れる構造で、被挿入側自身の能動的な腰の運動は限定的となる。挿入側の体力に大きく依存する体位で、長時間の維持は挿入側の腕力・腰力に左右される。

被挿入側の体重を腰の上に支えるため、挿入側の身体には大きな構造的負荷がかかる。被挿入側が小柄である場合、ないし挿入側の体力が著しく強い場合に限り、安定した結合が可能となる。江戸艶本の図譜では、こうした体位上の制約は明示的に描かれず、画面上ではむしろ両者が容易に体位を維持しているかのように構成される。

派生形

杣人の派生として、被挿入側を完全に背負って歩く「歩き杣人」、樹木に身体を寄せかけて支えを得る「寄せ杣人」、座位に変形して負荷を軽減する「座り杣人」など、複数の応用形が艶本に記録されている可能性がある要出典。これらは立位応用体位の総体として、近世日本の艶本文化における立位表象の幅を示す。

駅弁体位との比較

杣人(背面型抱え)と駅弁(対面型抱え)は、立位で被挿入側を抱え上げる体位群の二大型として並列関係にある。両者の運動学的特徴を対比すると、対面型の駅弁では両者の視線・呼吸が交わり密着の質感が高い一方、背面型の杣人では両者の視線が交わらず、より労働的・運動学的な所作の印象が強くなる。

近世日本の艶本においては両者ともに立位応用形として配されるが、近代以降は対面型の駅弁が主流の立位応用体位として一般化し、背面型の杣人は縁辺化した。これは、対面型が両者の感情的接触をより明示的に表現する点で、近代以降の親密性概念と整合的だったためと考えられる要出典

受容と意味

杣人という体位名は、近世日本の山林労働の所作を性愛体位に取り込む江戸艶本の文芸的命名意識の代表例である。山中で重い荷を背に負って山道を下る樵の姿という、近世庶民にとって馴染み深い労働風景が、艶本における体位の名となる。この意匠の往還は、性を労働から切り離して特殊な場域に隔離する近代以降の感性とは対照的に、性を職業労働の連続のうちに位置づける近世日本の感性を象徴する。

現代の体位分類において杣人は独立した体位として扱われることはほぼなく、立位応用体位の総体のなかに駅弁体位の派生として理解されるのが通例である。しかし、杣人の名そのものは江戸文化の遺産として春画研究書・性愛文化史において言及され、四十八手命名における職業意匠借用の代表例として参照され続けている。

杣人の体位名が反映する近世日本の労働文化と性表象の連続性は、現代の性愛論において再評価される視座でもある。性を労働・生活・信仰の連続のうちに位置づける近世の感性は、性を切り離された特殊領域として扱う近代以降の感性とは異なる、もう一つの性表象の在り方を示す。四十八手の固有名体位群は、こうした文化史的視座から再読される価値を持つ歴史的資料である。

関連項目

  • 四十八手 — 杣人が含まれる体位分類体系
  • 駅弁 — 杣人と類縁関係にある対面型抱え上げ体位
  • 寝駅弁 — 駅弁体位の派生形
  • 立位 — 杣人が分類される基本体位カテゴリ
  • 後背位 — 杣人が背面結合の系譜に属する基本体位
  • 春画 — 杣人が描かれた媒体

最終更新

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参考文献

  1. 林美一 『江戸艶本研究』 河出書房新社 (1988-1990)
  2. 白倉敬彦 『春画の色恋 江戸のむつごと「四十八手」の世界』 講談社学術文庫 (2018) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000211799
  3. 車浮代 『[カラー版] 春画四十八手』 光文社知恵の森文庫 (2018)
  4. 永井義男 『四十八手 江戸庶民の性愛文化』 角川ソフィア文庫 (2018)

別名

  • 杣夫
  • 杣人位
  • somabito
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