本文へスキップ

hentai-pedia

寿の字を、女の身体に縄で描く。江戸の艶本師は、祝意の文字と緊縛とを重ねた奇妙な命名を、四十八手のなかに残した。

寿縛り(ことぶきしばり)とは、四十八手における緊縛系の派生体位の一つで、被挿入側を「寿」の字型に縛って結合する形態を指す。江戸艶本における特殊な体位の一例で、緊縛と性交を組み合わせる近世日本の体位命名の系譜に属する。祝意を表す「寿」の文字意匠と、身体を拘束する緊縛とを重ねる文芸的命名となっており、近世日本の艶本における意匠借用の極致を示す体位名の一つである。

概要

寿縛りは、被挿入側の身体を縄で縛り、その縛りの図形が漢字「寿」の字型を描くようにしつつ結合する体位である。具体的な縛り方の細部は刊本ごとに異同があり、「寿」の字を直接描く厳密な型と、寿の字の一部要素(横線・縦線の組み合わせ)を身体上に再現する型とがある要出典。前者は祝賀・婚礼の文脈での儀礼的演出を含意し、後者はより実用的な拘束体位として機能する。

四十八手の体位群の大部分が縄を用いない通常の体位であるなかで、寿縛りは緊縛を体位構成要素として組み込む特殊な命名である。同様の緊縛系体位として「鳥居縛り」「亀甲縛り」など、近世から近代にかけて発展した縄文化との接点を示す名がいくつか伝わる。寿縛りは、これらの緊縛文化の中で、祝意の文字意匠を借用した文芸的命名の一例として位置づけられる。

身体運動上、寿縛りは縄による拘束が体位の基本構造を成す。縛られた被挿入側は身体の自由が制限され、結合における主導性は挿入側にほぼ全面的に委ねられる。両者の体位上の立場は、通常の対面正常位に近いが、被挿入側の身体配置と動作の自由度が縄により規定される点で、運動学的には独自の特性を持つ。

語源

「寿」(ことぶき、ジュ)は、長命・祝賀・幸福を表す漢字で、「寿命」「寿賀」「米寿」「喜寿」など祝賀の語に頻用される最重要の祝字である。書道においては草書・行書・楷書の各書体で多様な書き方がなされ、装飾文字として「百寿」(寿の字を百個並べる長寿祈願の意匠)、「変体寿」(寿の字を様々に変形させた装飾)が祝意の意匠として近世日本の生活文化に深く定着していた。

「縛り」(しばり)は、縄・紐・帯などで身体や物を拘束することを指す動詞「縛る」の名詞形で、近世日本の文化において縄縛りの技法は捕縛(罪人を拘束する役人の技術)、儀礼(神事における注連縄)、芸能(歌舞伎の縄手の所作)、武術(柔術の捕縛技法)など多領域で発達してきた。

四十八手における「寿縛り」の名は、祝賀の文字意匠と緊縛の所作とを組み合わせた複合的命名である。「寿」の文字を身体の上に縄で描く視覚的演出は、婚礼・祝賀の場における儀礼的性愛を含意する可能性があり、嫁入り春画(嫁入り絵、たしなみ絵)の文脈で生まれた可能性も指摘される要出典

別解として、「寿縛り」を「ことぶきしばり」と読むのは、純粋に「めでたい縛り方」「祝意を込めた縛り方」の意で理解する読み方もありうる。江戸艶本の体位名は刊本ごとに解釈に揺れがあり、命名の本来意図と通用上の理解が必ずしも一致しない例が多い。

歴史

江戸期の縄文化と艶本

近世日本における縄文化は、捕縛術(警吏の罪人拘束技法)、武術(柔術の縄手・縛手)、儀礼(神事の注連縄、葬送の縄)、職人技(漁網・荷縄)など、多領域で高度に発達していた。武家の捕縛術は流派ごとに体系化され、罪人の身分・性別に応じた縛り方が細かく定められていた。

江戸艶本における緊縛の画題は、こうした縄文化の素地のうえに展開した。罪人を捕縛する所作と、性愛における拘束との視覚的類比が、艶本の特殊画題として一部の刊本に取り込まれた。寿縛りはこの系譜に属し、緊縛を性愛体位に組み込む江戸艶本の特殊命名の一例である。

ただし、近世の艶本における緊縛画題は決して頻出するものではなく、むしろ全体としては稀有な特殊画題であった要出典。寿縛りも、四十八手の中核を成す本手・茶臼松葉崩しのような頻出体位ではなく、艶本一冊の中に一場面か二場面配される程度の特殊体位として位置づけられた。

近代緊縛(SM 緊縛)との関係

近代以降、特に大正・昭和期に発展した SM 文化における緊縛(現代でいう「緊縛」「」)は、江戸の捕縛術・艶本の緊縛画題を背景としつつ、独立した美学体系として展開した。伊藤晴雨(1882-1961)、団鬼六(1931-2011)らの仕事を通じ、近代緊縛は SM 美学・写真表現・舞台表現の中核的様式として確立された。

寿縛りのような江戸艶本の緊縛体位名と、近代緊縛における体系的縄技法とは、直接的な継承関係を持たない別個の系譜と理解されるべきである。前者は江戸艶本の特殊画題として断続的に現れた命名であり、後者は伊藤晴雨以降の近代美学のうちに体系化された独自の文化である。両者は近世から近代にかけての日本の縄文化の二つの潮流として、相互に独立に発展した。

ただし、近代緊縛の語彙のなかに「寿縛り」の名が継承される例はなく、近代緊縛における型(高手小手、後手縛り、菱縄、亀甲縛りなど)は江戸艶本の体位名とは別系統の命名体系を持つ。寿縛りの名は、四十八手の文献的研究と春画研究の文脈においてのみ参照される、近世限定の体位名である。

婚礼儀礼との関係

「寿」の文字意匠が婚礼・祝賀の象徴であることから、寿縛りが婚礼儀礼における特殊な祝賀演出として用いられた可能性が指摘される要出典。江戸期の婚礼春画(嫁入り絵、たしなみ絵)において、夫婦和合・子孫繁栄を祝福する画題が選好されたことを踏まえると、寿縛りも祝意を込めた特殊体位として、婚礼春画の中に配される画題であった可能性がある。

ただし、現存する江戸艶本のなかで寿縛りが婚礼の文脈に明示的に配された刊本は限定的であり、こうした婚礼関連説は推定の域を出ない。

近代以降の縁辺化

明治期以降の出版統制と西洋的性規範の流入のなかで、寿縛りの名は古書市場と一部の春画研究の領域に縁辺化した。近代の性愛指南書において、寿縛りの名が独立に取り上げられることはほぼなく、四十八手系艶本の総覧的紹介において緊縛系特殊体位として総括的に言及される程度に留まっている。

戦後の春画研究と緊縛文化史研究の進展のなかで、寿縛りは江戸艶本における緊縛画題の一例として再評価され、近世日本の体位命名における意匠借用の極致を示す事例として参照されるようになった。

形態と所作

基本姿勢

寿縛りの基本姿勢は刊本ごとに異同があるが、被挿入側の身体に縄をかけ、縛りの図形が「寿」の字型を成すように構成するのが原則である。「寿」の字は楷書で縦六画・横数画から成る複雑な字形で、これを身体上に縄で再現するためには、首・・胸・・腿の各部に縄を配する必要がある。

実用的な型としては、被挿入側の両腕を背に回して縛り(後手縛り)、胸と腰に菱形・格子形の縄をかけ、その全体図形を「寿」の意匠に擬える型が想定される要出典。挿入側は被挿入側の脚の間に位置し、対面型ないし後背位型で結合する。

結合と運動

縛られた被挿入側は身体の自由が制限され、結合における主導性は挿入側にほぼ全面的に委ねられる。挿入側の腰の前後動が結合運動の主動軸となり、被挿入側は受動的な姿勢を保つ。

縄による拘束は、運動学的に被挿入側の動きを制限するだけでなく、心理的・象徴的な意味を持つ。拘束の状態における結合は、通常の自発的合意のうえでの結合とは異なる演出性を含み、近代の SM 美学が継承する「拘束と享楽」の構造を、すでに近世の段階で部分的に体現していたとも読める。

派生形

寿縛りの派生として、「松竹梅縛り」(松・竹・梅の三吉祥を意匠化した縛り)、「亀鶴縛り」(亀・鶴の長寿吉祥を意匠化した縛り)など、祝意系の縛り名が艶本に断続的に見られる要出典。これらは寿縛りと同じく、祝賀・吉祥の意匠を緊縛と組み合わせる文芸的命名群を成す。

受容と意味

寿縛りという体位名は、祝意の文字意匠と緊縛の所作とを重ねる江戸艶本の文芸的命名意識の極致を示す。「寿」という、近世日本の生活文化において最も格式の高い祝字が、性愛における拘束体位の名となる。この意匠の往還は、近世の性表象が祝賀・儀礼・芸能と地続きの場で展開していたことを示すと同時に、江戸艶本の命名意識が「常識的な意味の組み合わせ」を逸脱して文芸的遊戯の領域に達していたことを示す。

現代の体位分類において寿縛りは独立した体位として扱われることはほぼなく、近代以降の緊縛文化の枠組のなかで総括的に把握される。しかし、寿縛りの名そのものは江戸文化の遺産として春画研究書・緊縛文化史において言及され、近世日本の体位命名における意匠借用の極致を示す事例として参照され続けている。

緊縛と性愛との結合は、近代以降の SM 文化において体系的に発展したが、その素地となる「身体の拘束を性愛の演出に組み込む感性」は、すでに江戸艶本の段階で部分的に展開していた。寿縛りはその一例として、近世から近代に至る日本の緊縛文化史における連続性と断絶の双方を示す資料的価値を持つ命名である。

関連項目

  • 四十八手 — 寿縛りが含まれる体位分類体系
  • 緊縛 — 近代以降の体系的縄文化
  • SM 文化 — 緊縛が組み込まれる近代の性愛美学体系
  • BDSM — 緊縛を含む欧米起源の性愛実践群
  • 調教 — 緊縛と組み合わされる近代の性愛実践概念
  • 春画 — 寿縛りが描かれた媒体

最終更新

PR
✎ この記事の修正を提案

参考文献

  1. 林美一 『江戸艶本研究』 河出書房新社 (1988-1990)
  2. 白倉敬彦 『春画の色恋 江戸のむつごと「四十八手」の世界』 講談社学術文庫 (2018) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000211799
  3. 車浮代 『[カラー版] 春画四十八手』 光文社知恵の森文庫 (2018)
  4. 団鬼六 『緊縛の文化史』 二見書房 (1996)

別名

  • 寿しばり
  • 寿縛
  • kotobuki shibari
人気のエロ単語 Hentai Words

流星 りゅうせい / ryuusei

体位・行為

杣人 そまびと / somabito

体位・行為

寄せ千鳥 よせちどり / yosechidori

体位・行為

茶臼 ちゃうす / chausu

体位・行為

松葉崩し まつばくずし / matsubakuzushi

体位・行為