HPV(ヒトパピローマウイルス、英: Human Papillomavirus)は、ヒトの上皮細胞に感染するパピローマウイルス科のDNAウイルスの総称で、200種類以上の型(genotype)が存在する。性的接触による感染率が極めて高く、性的に活発な成人の大多数が生涯に1回以上HPVに感染すると推計されている(Dunne et al., CDC 2007年)。多くは無症状のまま免疫によって自然排除されるが、一部の高リスク型が持続感染することで子宮頸がんをはじめとするがんの原因となる。
型と病態の分類
HPVの型は、がんとの関連性に基づき「高リスク型」と「低リスク型」に大別される。
高リスク型(がん関連型): HPV16・18が最も頻度が高く、子宮頸がんの約70%はこの2型が占める。HPV31・33・45・52・58なども高リスクに分類される。高リスク型が子宮頸部に持続感染すると、前癌病変(CIN: 子宮頸部上皮内腫瘍)を経て子宮頸がんへ進展しうる。進展には通常数年〜十数年かかる。
高リスク型は子宮頸がん以外にも、膣がん・外陰がん・肛門がん・陰茎がん・中咽頭(のど)がんの原因となる。HPV関連の中咽頭がんは近年欧米で急増しており、オーラルセックスによる感染が背景にある。
低リスク型: HPV6・11が主体で、尖圭コンジローマ(性器・肛門周辺に生じるイボ状の良性腫瘍)を引き起こす。がんへの進展はほとんどないが、再発しやすく治療に複数回の処置を要することがある。全性器コンジローマの90%以上がHPV6・11型による。
感染経路と感染率
HPVは主に皮膚・粘膜の接触によって感染し、性行為(膣性交・肛門性交・オーラルセックス)が主要な感染経路である。コンドームは感染を低減するが、皮膚接触による感染を完全には防げないため100%の防御にはならない。
感染率は極めて高く、性的活動を開始してから数年以内に大多数の人がHPVに感染するとされる。日本のデータでは、性経験のある若い女性のHPV感染率は年齢・パートナー数によって20〜40%以上とする報告がある。感染した人の大半(約90%)は2年以内に免疫によってウイルスが排除される。問題となるのは排除されずに持続感染した場合である。
子宮頸がんとHPV
子宮頸がんは世界の女性がんの第4位(2020年、WHO)で、日本では年間約1.1万人が罹患し約2900人が死亡している(2019年、国立がん研究センター統計)。罹患は20〜40代に多く、妊娠可能年齢の女性に影響する点が深刻である。
子宮頸がんの発症には「HPVの持続感染→前癌病変(CIN1〜3)→浸潤がん」という段階的な進展がある。前癌病変段階での発見・治療で子宮を温存した治療が可能であるため、定期的な子宮頸がん検診(細胞診・HPVスクリーニング)が極めて重要となる。
HPVワクチン
HPVワクチンはHPV感染を予防する予防接種で、感染前に接種することで高い予防効果(90%以上)を発揮する。現在日本で使用されるワクチンとして9価ワクチン(HPV6・11・16・18・31・33・45・52・58型に対応、シルガード9)・4価ワクチン・2価ワクチンがある。
日本では2013年に定期接種が始まったが、接種後に多様な症状を訴える報告が相次いだとして2013〜2022年の約9年間、積極的勧奨が差し控えられた。この間の接種率は数%台に低迷し、本来守られたはずの女性が子宮頸がんのリスクに晒されたとする批判が強い。2022年4月に積極的勧奨が再開され、接種機会を逃した女性へのキャッチアップ接種(1997〜2006年度生まれ)も2025年3月まで実施された。
男性へのHPVワクチン接種も、肛門がん・陰茎がん・中咽頭がん予防、および女性パートナーへの感染伝播防止の観点から推奨されつつある。世界59か国以上(米国・オーストラリア・英国など)では男性も定期接種対象だが、日本では男性の定期接種は2026年時点で未実施であり、自費診療となる。厚生労働省の審議会で定期接種化の検討が進んでいる。
最終更新
別名
- HPV
- ヒトパピローマウイルス
- human papillomavirus
- 子宮頸がんウイルス