短い髪、男もののシャツ、低めの声。性別の境界線をひらりと飛び越える女子像は、宝塚から少女漫画を経て、現代のサブカルでも定型属性として息づいている。
ボーイッシュ(英: boyish / tomboy)とは、短髪・中性的な装い・男性的所作を持つ女性キャラクター類型、およびそれを対象とする嗜好の総称である。少女漫画の宝塚的伝統から派生し、アニメ・ゲーム・成人向け表現における独立した萌え属性として様式化されてきた表現類型である。
概要
ボーイッシュ類型の視覚的中核は「短い髪型」と「中性的装い」にある。ショートカット・ベリーショート・ハンサムショート等の短髪、男性服・パンツルック・ユニセックスファッション等の中性的衣服、化粧の最小限化等が、定型を構成する視覚要素である。
人格的属性としては、明るい・サバサバした・男性に対して対等に接する・運動部・体育会系等の連想が結合している。少女漫画・アニメ・成人向けゲームのキャラクター造形において、これらの視覚的・人格的属性が一体のセットとして機能してきた。
ギャップを物語装置として用いる作品傾向が顕著である。日常場面での中性的・男性的振舞いと、性的場面での女性的反応・恥じらい・脆弱性との対比が、ボーイッシュキャラクターの物語的快楽の中核を成す。男装少女・男の娘・女装等の隣接類型との比較において、ボーイッシュは「身体は女性で、所作のみ男性的」という設定が独立した類型を形成している。
小柄系の体型属性、スレンダー系の体型属性と組み合わせられることが多く、これらの体型属性がボーイッシュ類型の中性性を視覚的に補強している。
語源
「ボーイッシュ」は英語 boyish(少年的な、少年のような)の借用形である。20 世紀前半の日本に流入したファッション用語で、女性が男性的なスタイルを取り入れる装いを指す美容・服飾用語として定着した。1920 年代モダンガール文化、戦後の女性服飾論、1970 年代以降のユニセックスファッション論を経て、サブカル領域における人物類型用語として転用された経緯がある。
英語圏における類似概念としては tomboy(おてんば、男勝り)が長期にわたって流通している。tomboy は人格・行動を中心に指す語であるのに対し、日本語の「ボーイッシュ」は外見・装いを中心に指す語として、用法に微妙な差異が生じている。
ピクシブ百科事典等のサブカル辞典は、ボーイッシュを「外見が男性的・少年的な女性キャラクター」と定義し、人格属性の付随性を二次的なものとして整理している。
歴史と展開
大正・昭和期: モダンガールと宝塚
近代日本における中性的女性像は、1920 年代のモダンガール(モガ)文化に祖型を見出す。短髪・洋装・公的空間での自由な振舞いを特徴とする女性像が、流行語として大衆化した。
宝塚歌劇団(1914 年創立)は、男役を演じる女性役者という独自の演劇形式を発展させ、男性的所作と女性的本質との両立を芸術的に様式化した。宝塚男役の伝統は、20 世紀後半以降の少女漫画・アニメにおける中性的女性キャラ表現の重要な源流の一つとして遡及的に参照される。
1970-1980 年代: 少女漫画での定型化
少女漫画における中性的女性キャラクターは、1970 年代の池田理代子『ベルサイユのばら』(1972-1973 年)が決定的な画期となった。男装の麗人オスカルの登場は、宝塚的男役の伝統を漫画表現として定着させ、後続作品への系譜を切り開いた。
1980 年代以降の少女漫画・少年漫画における中性的女性キャラクター表現は、この系譜を踏まえつつ多様化した。スポーツもの・学園もの・ファンタジーものの各ジャンルで、ボーイッシュ類型のキャラクターが定型として浸透した。
1990-2000 年代: 美少女ゲーム・アニメでの萌え属性化
1990-2000 年代の美少女ゲーム・アニメ領域で、ボーイッシュは独立した萌え属性として様式化した。「短髪 + 男性的口調 + 性的場面では女性的反応」という属性セットが、複数作品にわたって反復される定型属性として確立した。
同人誌・成人向けゲームでは、ボーイッシュキャラの「ギャップ」を物語装置として用いる作品が継続供給されている。男口調で接する日常パートと、性的場面で見せる女性的反応の落差が、消費者にとっての物語的快楽の中核を成す構造として様式化している。
2010-2020 年代: 細分化と隣接類型との関係整理
2010 年代以降、サブカル空間における人物類型は精密に細分化され、ボーイッシュ類型と隣接類型(男装少女・男の娘・女装・性別不詳キャラ等)との関係が、ジャンル論として整理されてきた。「身体は女性 / 所作は男性的」というボーイッシュの基本設定は、これらの隣接類型と区別される独立の類型として確認されている。
FANZA 動画・同人誌領域においても、ボーイッシュ属性を看板に掲げる作品が継続的に上位を占有しており、現代サブカル空間における恒久的属性として定着している。
派生形態
ハンサムショート系
明確に「ハンサム」「カッコいい」を強調する系譜。男装の麗人系の伝統に連なり、宝塚男役的な様式化を経たキャラクター造形が中心となる。
スポーツ系ボーイッシュ
運動部・スポーツマン的な人格属性と結合した系譜。陸上部・水泳部・テニス部・サッカー部等の部活設定と組み合わされ、中性的な体躯と活発な人格の組合せが定型化している。
弟系・少年系
成熟期以前の少年的体格を持つ女性キャラクター。小柄体型と組み合わせられ、児童ポルノ規制との緊張関係を抱える領域でもあるため、年齢設定の明示が慎重に運用される。
隣接類型との区別
男の娘が「身体は男性 / 装いは女性的」を指すのに対し、ボーイッシュは「身体は女性 / 所作は男性的」を指す。逆方向の中性化として並列し、両者は独立の類型を成す。男装の麗人(身体は女性 / 装いは完全な男装)はボーイッシュの極端形として位置づけられ、軽度の男性的所作のみのボーイッシュとは段階的に区別される。
受容心理
ボーイッシュ嗜好の核心として、しばしば「ギャップ」の構造が論じられる。男性的な日常の振舞いと、性的場面での女性的な反応との落差が、消費者にとっての物語的快楽の中核を成している。ジャンル横断的な「わからせ」の構造とも部分的に重なる。日常での自立した男性的振舞いが性的場面で解体される過程が、物語装置として機能する要出典。
性別二元論からの逸脱を享楽する側面も論じられる。男女の所作・装い・体格の境界が現代社会で流動化する中で、サブカル空間における中性的キャラクター表現は、その流動性を享楽の対象として様式化してきた。男装の麗人・男の娘・女装等の隣接類型と並んで、ボーイッシュは性別表象の流動的領域を担う萌え属性として機能している。
ジェンダー論の観点からは、女性キャラに男性的所作を付与しつつ最終的に女性的反応を引き出す物語構造が、伝統的ジェンダー規範を再生産する側面を持つことへの批判的考察も提起されている。表現様式とジェンダー論の関係は、サブカル研究の継続的な論点である。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『ボーイッシュ』 ピクシブ百科事典 — キャラクター類型の整理 https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
- 『美少女キャラクター研究』 三才ブックス (2008)
- 『オタク用語辞典 大限界』 三省堂 (2023)
- 『美少女ゲームの臨界点』 波状言論 (2004) — 萌え属性論の参照点
別名
- ボーイッシュ系
- 中性的女子
- tomboy
- boyish