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合コン、マッチングアプリ、街中で目が合った瞬間。多くの人にとって、初対面の相手に対する性的・恋愛的興奮は数秒から数分の単位で立ち上がる経験である。しかし一定数の人々にとって、その種の引力は決して立ち上がらない。長く話し、何度も会い、互いの人格の核を共有する関係に到達して初めて、相手の身体に対する性的興奮が生じる。「一目惚れができない」と長年悩んでいた者が、ある日「デミセクシュアル」という英語に出会う。「相手をよく知らないと欲望が起こらない自分」が、欠陥でも病気でもなく、ひとつの性的指向として名前を与えられている。長年の違和感が、診断ではなく承認として返ってくる瞬間である。

デミセクシュアル(demisexual、半性愛)とは、強い情緒的・人格的絆が成立した相手に対してのみ性的引力を感じる性的指向を指す英語起源の語である。略称「デミ」(demi)も英語圏当事者間で運用される。アセクシュアル・スペクトラム内部の独立カテゴリとして、2006-2008 年頃に AVEN を発祥として概念化された。本項では概念の定義、語源、隣接概念との関係、当事者の経験を扱う。

概念の定義

デミセクシュアルの中核的定義は、「強い情緒的・人格的絆が成立した特定の相手に対してのみ、性的引力を感じる性的指向」である。「性的引力」(sexual attraction) と「情緒的引力」(emotional attraction) は別個の経験で、デミセクシュアル当事者は前者が後者の確立を前提として初めて生起する点に特徴がある。

これは以下とは区別される:(1) 単純な性的シャイネス・経験不足(時間と経験で変化する一時的状態)、(2) 性的禁欲(celibacy、意図的な選択)、(3) 完全なアセクシュアル(性的引力そのものをほとんど経験しない)、(4) 慎重な性格(性的引力は感じるが、行動は慎重に管理する)。

デミセクシュアル当事者は、初対面の相手・浅い知り合いの相手に対して、見た目・声・身体的特徴を理由とする性的興奮をほぼ経験しない。一方、長期にわたる対話・共有経験・人格的理解が蓄積した相手に対しては、通常の性的興奮を経験する。両者の境界は連続的だが、当事者にとっては質的な違いとして経験される。

語源

「demisexual」の語は、ラテン語 dimidius(半分の)を語源とするフランス語経由の英語接頭辞 demi- と、sexual(性に関する)の合成語である。「半分性的」「中間的に性的」のニュアンスで、完全なアセクシュアルと完全なアロセクシュアル(allosexual、性的引力を一般的に感じる者)の中間的位置を指す。

語の登場は、AVEN フォーラム上の 2006 年の議論記録に遡り、2008 年頃にデミセクシュアル独自の自助グループが組織され始めた。2010 年代に入って英語圏 LGBTQ+ コミュニティで広く運用されるようになり、2010 年代後半以降に日本でも借用語として定着した。

アセクシュアル・スペクトラムとの関係

デミセクシュアルは、アセクシュアルスペクトラム内部の特定の位置を占めるカテゴリとして概念化される。アセクシュアル(性的引力をほぼ経験しない)とアロセクシュアル(性的引力を一般的に経験する)を両極とする連続体の中で、デミセクシュアルは「特定条件下で性的引力を経験する」位置に置かれる。

スペクトラム内の隣接カテゴリとして「グレーセクシュアル」(gray-asexual、滅多に性的引力を感じない)、「フレイセクシュアル」(fraysexual、最初は性的引力を感じるが知り合うほど薄れる、デミセクシュアルの逆)などがある。これら派生カテゴリは、性的引力の量・条件・パターンの違いを記述するためのバリエーションを構成する。

隣接概念との関係

「ロマンチック」と「セクシュアル」の分離

デミセクシュアルの理論的枠組は、「ロマンチック・オリエンテーション」(恋愛的指向)と「セクシュアル・オリエンテーション」(性的指向)を分離する立場に立つ。デミセクシュアル当事者は、(1) デミロマンチック・デミセクシュアル(両方とも特定条件下のみ)、(2) パンロマンチック・デミセクシュアル(恋愛的引力は誰にでも感じるが性的引力は特定条件下のみ)、など複数の組み合わせを取りうる。

性別による偏在

デミセクシュアルとして自己同定する者の比率は、女性の方が男性より高い傾向が報告される。これは、(1) 女性の方が性的引力の経験を「絆」と結びつける文化的規範を内面化しやすい、(2) 男性のデミセクシュアルが社会的に語りにくい、(3) 実際の生物学的・心理学的差異、など複数の要因が指摘されており、単一の説明には収束していない。

当事者の社会的経験

デミセクシュアル当事者が経験する社会的困難として、以下が報告される。

(1) 「奥手」「経験不足」「異常」と評価される経験。一夜限りの関係・短期の恋愛が一般化する若年文化の中で、深い絆を必要とする性的志向は「未熟」「保守的」と片付けられがち。

(2) マッチングアプリ・合コン等の現代的出会いの場との不適合。これらは短期的な性的・恋愛的引力を前提に設計されており、デミセクシュアル当事者にとって機能しにくい。

(3) 既存の関係の中で性的引力が薄れた際の困惑。長期関係の中で互いの人格的理解が蓄積した結果、却って初期のような性的興奮が再現できなくなるパターンも報告され、関係の維持に固有の困難をもたらす。

(4) 当事者概念の認知不足。「アセクシュアル」概念ですら社会的浸透が不十分な日本では、デミセクシュアル概念はさらに認知が遅れ、当事者が自己同定にたどり着くまでの時間が長くなる傾向がある。

性的自己開示との関係

デミセクシュアル当事者は、自身の性的指向を相手に説明する必要に頻繁に直面する。「すぐに性的になれない理由」を相手に言語化して伝える能力は、関係構築の前提となる。性的自己開示能力の重要性が、他の性的指向以上に切実な問題として浮上する。

近年の英語圏では、デミセクシュアル当事者専用のマッチングサービス、自助グループ、教育資料などが整備されつつある。日本でも 2020 年代以降、当事者団体の組織化、メディアでの語りの掲載、ライトノベル等のフィクション作品でのデミセクシュアル登場人物の描写などを通じて、概念の社会的浸透が進みつつある。

関連項目

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参考文献

  1. Bogaert, Anthony F. 『Understanding Asexuality』 Rowman & Littlefield (2012)
  2. Decker, Julie Sondra 『The Invisible Orientation: An Introduction to Asexuality』 Skyhorse Publishing (2014)
  3. 『Asexual Visibility and Education Network (AVEN)』 AVEN https://www.asexuality.org/

別名

  • デミセクシュアル
  • デミセクシャル
  • demisexual
  • デミ
  • demi
  • 半性愛
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