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「あなただけ」を誓う関係を社会が長く理想としてきた。映画も小説も歌も、その理想を繰り返し再生産する。ところが現実には、人類社会の多くは厳密な一夫一妻制で運用されてこなかった。配偶者以外の関係は不貞・浮気として隠蔽されるのが通例だった近代社会で、1990 年代以降の英語圏で「合意の上で複数のパートナーと同時に関係を持つ」生き方を肯定する運動が組織化された。秘匿ではなく開示、欺瞞ではなく合意、嫉妬の管理、相互の自由の保障。これが「ポリアモリー」の中核となる倫理である。

ポリアモリー(polyamory、複数愛)とは、関与する全員の合意のもとで、複数のパートナーと同時に恋愛・性的関係を持つ関係様式を指す英語起源の語である。略称「ポリ」(poly)も英語圏当事者間で運用される。1990 年代に北米で運動化し、2010 年代以降に日本にも借用語として定着した。本項では概念の定義、語源、倫理、実践形態、隣接概念、批判と限界を扱う。

概念の定義

ポリアモリーの中核的定義は、「関与する全員の合意・了解のもとで、複数の人と同時に親密な関係を持つ関係様式」である。重要な要素として:(1) 全員の合意(consensual)、(2) 透明性・開示(open)、(3) 倫理的責任(ethical)、(4) 嫉妬の処理を含む情緒的成熟(emotional maturity)、を挙げる立場が広く運用される。

これは以下とは区別される:(1) 不貞・浮気(cheating、合意のない秘匿された複数関係)、(2) 一夫多妻制・一妻多夫制(伝統的な制度的複数婚)、(3) スワッピング(性的活動のみを共有する関係)、(4) ネトラセネトリ等の特殊な性的嗜好。

ポリアモリーは、関係様式・倫理的立場であり、性的指向(sexual orientation)とは異なる概念領域に位置づけられる。同じ人物が異なる時期に一夫一妻的関係とポリアモリー的関係の両方を実践することもある。

語源

「polyamory」の語は、ギリシャ語接頭辞 poly-(多数の)とラテン語 amor(愛)を結合した造語である。語の登場は 1990 年代前半の米国オンラインコミュニティに遡る。Morning Glory Zell-Ravenheart(1948-2014)が 1990 年に発表したエッセイ「A Bouquet of Lovers」が、「polyamorous」の語の最初期使用例として広く認知される。

1997 年の Dossie Easton & Janet Hardy(当初の著作名 Catherine A. Liszt)『The Ethical Slut』は、ポリアモリーの倫理を体系化した古典として、運動の理論的基礎を提供した。同書は版を重ね、2017 年に第三版が刊行されており、英語圏の運動の標準テクストとして継続的に運用されている。

倫理

ポリアモリーが「不貞・浮気」と区別される根拠は、その倫理的枠組にある。代表的なポリアモリーの倫理原則として、以下が運動内で広く共有されている。

合意(consent)

関与する全員が、関係の構造を理解し、その構造に明示的に合意する。新しい関係が加わる際は、既存のパートナーへの開示・了解を取ることが原則となる。秘匿による複数関係はポリアモリーではなく不貞として位置づけられる。

透明性(transparency)

関係の構造、新しい関係の進展、性的接触の有無、避妊・性病予防の措置などを、関与する全員に共有する。情報の非対称性を最小化する努力が、関係の安定の前提となる。

嫉妬の管理(compersion)

ポリアモリー運動内では、パートナーが他のパートナーと幸せでいることに対して肯定的感情を持つ状態を「コンパージョン」(compersion)と呼び、運動の理想として位置づける。ただし嫉妬は完全に消去できる感情ではなく、嫉妬と共存しつつ管理する技能が、現実的な目標として運用される。

自律(autonomy)

各パートナーが、自身の他の関係・友情・趣味・職業・自己実現の領域に対する自律性を保つ。「相手の生活を独占しない」「相手を所有物として扱わない」原則は、ポリアモリーの倫理の中核となる。

実践形態

ポリアモリーの実践形態は多様で、以下のような区分が運動内で運用される。

ハイアラキカル・ポリアモリー(hierarchical polyamory)

「メインパートナー」(プライマリ)と「セカンダリ・パートナー」を区別する形式。同居・経済的共有・育児等の現実的責任は主にメインパートナーと共有し、他のパートナーとは異なる種類の関係を持つ。

非ハイアラキカル・ポリアモリー(egalitarian polyamory)

全てのパートナーを対等に位置づけ、序列をつけない形式。実務的には複雑だが、平等主義的倫理を重視する立場の運動家が選好する。

ソロ・ポリアモリー(solo polyamory)

「メインパートナー」を持たず、複数の独立した関係をそれぞれ自律的に営む形式。同居・結婚等の制度的束縛を持たず、各関係の自律性を最大化する立場。

キッチンテーブル・ポリ(kitchen table polyamory)

全てのパートナー同士が友好関係を持ち、キッチンテーブルで一緒に食事できるほどの関係を理想とする立場。コミュニティ的な結合を重視する形式。

パラレル・ポリ(parallel polyamory)

各パートナー同士は直接的な交流を持たず、各関係が独立に営まれる形式。プライバシーを重視する立場で、個別関係の自律性を保つ。

隣接概念

ポリアモリーは、(1) 「コンセンシュアル・ノン・モノガミー」(consensual non-monogamy, CNM、合意の上での非一夫一妻制)の下位カテゴリとして位置づけられる。CNM の他のサブカテゴリとして、(2) スワッピング(性的活動のみを共有)、(3) オープンリレーションシップ(性的活動を制約しない長期関係)、(4) リレーションシップ・アナーキー(関係の階層・カテゴリそのものを廃する立場)などがある。

学術調査では、米国成人の 4-5% 前後が現在 CNM 関係を実践し、20% 前後が生涯のいずれかの時点で CNM を実践した経験を持つと推計されている要出典

日本における可視化

日本における可視化は 2015 年以降に本格化した。文化人類学者の深海菊絵『ポリアモリー 複数の愛を生きる』(2015)、当事者団体・自助グループの組織化、SNS・メディアでの当事者の語りの掲載などを経て、認知が徐々に広がりつつある。日本のポリアモリー実践者のオンライン・コミュニティは、2010 年代後半以降に大幅に拡大した。

ただし日本の家族法・税制・社会保障制度は一夫一妻を前提に構築されており、ポリアモリー実践者は法的承認を欠いた状態に置かれる。同性パートナーシップ制度の整備が進む一方、複数パートナー制度の議論は緒についたばかりである。

批判と限界

ポリアモリー運動への批判として、(1) 倫理的理想が高度すぎて実践が困難、(2) 実態として性的多様性を享受できる立場(時間的・経済的余裕のある中産階級以上)に偏在、(3) 子育て・財産管理・介護等の現実的問題への制度的解答の不足、(4) パートナー間の力関係の不平等への対応の不十分性、などが提起されている。これら批判は当事者運動内部でも継続的に議論されており、ポリアモリーの理論と実践の継続的な精緻化を促す要因となっている。

関連項目

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参考文献

  1. Easton, Dossie & Liszt, Catherine A. 『The Ethical Slut: A Guide to Infinite Sexual Possibilities』 Greenery Press (1997)
  2. Anapol, Deborah 『Polyamory in the 21st Century』 Rowman & Littlefield (2010)
  3. Veaux, Franklin & Rickert, Eve 『More Than Two: A Practical Guide to Ethical Polyamory』 Thorntree Press (2014)
  4. 深海菊絵 『ポリアモリー 複数の愛を生きる』 平凡社新書 (2015)

別名

  • ポリアモリー
  • ポリ
  • polyamory
  • poly
  • 複数愛
  • 多重恋愛
  • consensual non-monogamy
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