PC の電源を入れて、メーカーロゴが流れた後にメインタイトルへ遷移する瞬間、スピーカーから流れるイントロで物語の温度が決まる。涙を誘うピアノ、駆け抜けるシンセ、抑制された弦楽四重奏。エロゲBGM文化(エロゲ音楽、エロゲサントラ)とは、成人向け PC ゲーム(いわゆるエロゲ)のサウンドトラック・主題歌・BGM・劇伴を取り巻く音楽文化の総称であり、1990年代後半から独立した市場を形成してきた領域である。
概要
エロゲ BGM 文化の中核を担うのは、ビジュアルノベル ・美少女ゲーム 各メーカーの専属または契約作曲家、および主題歌・挿入歌を担当する歌手・ボーカリストである。コンシューマ・アニメ・劇伴と隣接しながら、独自の作曲家・歌手・サークル・レーベル群が育ってきた。
代表的な拠点に Visual Art’s の key Sounds Label(麻枝准・折戸伸治・戸越まごめら)、Leaf 系の楽曲(下川直哉・中山真斗ら)、ニトロプラス・5pb. 系(志倉千代丸)、I’ve Sound(高瀬一矢主宰、KOTOKO・川田まみ・島みやえい子)、Cyclet・Crow’s Claw・Whirlpool 等の同人サークル系が含まれる。
歴史
黎明期(1990年代前半)
PC エロゲの音楽は当初 FM 音源・MIDI による簡素な BGM が中心で、容量制限から多くの楽曲を載せることが難しかった。アリスソフト『ランス』 シリーズ、Leaf『雫』 『痕』 等の初期作品では、内蔵音源での簡潔な楽曲が物語の雰囲気を担う形式が主流だった。
CD-ROM 化と容量解放(1990年代後半)
CD-ROM 媒体が標準化したことで、エロゲは 圧縮音源での豊かな楽曲 を実装できるようになった。Leaf『To Heart』(1997) ・key『Kanon』(1999) ・key『AIR』(2000) で確立されたスタイルは、ピアノ主体の感傷的な BGM、ヒロインごとのテーマ曲、エンディング主題歌の三層構造であり、その後のエロゲ音楽の標準形式となった。
key・I’ve Sound 隆盛期(2000年代)
2000年代はエロゲ音楽の黄金期と重なる。key の麻枝准は『Kanon』 ・『AIR』 ・『CLANNAD』 の楽曲で 泣きゲー の音楽的核を作り、ピアノ・ストリングス・シンセを組み合わせた感傷的なメロディラインで多くのフォロワーを生んだ。同時期に高瀬一矢を中心とした I’ve Sound はトランス・テクノを基調にエロゲ主題歌 の市場を牽引し、KOTOKO・川田まみ・島みやえい子らが Lantis・Geneon Universal で一般メジャーシーンへも進出した。
コンシューマ・アニメ展開(2010年代)
エロゲ発のヒット作がコンシューマ機・アニメへ展開される時代に入り、作曲家・主題歌歌手の活動領域も一般メジャーへ拡大した。麻枝准は『AngelBeats!』(アニメ、2010) ・『Charlotte』(2015) で TV アニメ音楽を、I’ve Sound は『灼眼のシャナ』 ・『はじめてのギャル』 等のアニメ主題歌を担当した。志倉千代丸は『シュタインズ・ゲート』 等の 5pb. 系コンシューマ作品で大きく活動を広げている。
同人と商業の往還(2010年代以降)
商業エロゲメーカーの活動が縮小する一方で、同人音楽サークル(Sound Online・Active Planets・Cyclet 等)・同人音声 ・抜きゲー 系メーカーがエロゲ音楽の新たな供給源となった。商業メーカーの大型作品が減ったことで、作曲家のキャリアは 商業エロゲ・コンシューマ・アニメ・同人音楽の四領域を往還 する形に変化した。
主題歌とOPムービー
エロゲのオープニングムービーは、楽曲とアニメーションの組み合わせで 商品の顔 を成す重要要素となる。タイトルロゴ・キャラ立ち絵・印象的なシーンのスチル・歌詞テロップを組み合わせ、作品世界と楽曲を一体化させる演出が定型化した。pixiv ・YouTube 等への OP ムービー先行公開が販促の標準手法となり、購入前にユーザーが楽曲とビジュアルを視聴できる流れが確立した。
I’ve Sound・KOTOKO・川田まみ・霜月はるか・茶太・rino・佐咲紗花らがエロゲ主題歌を歌い、エロゲ声優文化 と並行して声優・歌手としての二重キャリアを築く事例も多い。
受容心理:物語の感情と直結する音
エロゲ BGM が独自の愛着を集める理由は、楽曲が 特定のキャラクター・特定のシーンの感情 と直結するためである。ヒロインのテーマ曲が流れると、そのキャラクターのルートで体験した感情が瞬時に蘇り、楽曲は物語体験の感情キャプチャ装置として機能する。
泣きゲー ・純愛系作品でこの結びつきは特に強く、サントラを単体で聴いてもプレイヤーは物語の場面を内面で再生してしまう。物語と音楽の二重露光が、エロゲ BGM 文化を形成する核である。
関連項目
最終更新
「エロゲBGM文化」の同人作品(DLsiteランキング)
参考文献
- 『美少女ゲームの臨界点+1』 波状言論 (2008)
- 『I've Sound 公式サイト』 I've Sound https://www.iveweb.net/
- 『key Sounds Label 公式サイト』 VisualArt's https://key.visualarts.gr.jp/
別名
- エロゲ音楽
- 美少女ゲーム音楽
- エロゲサントラ