オープニングが流れ始めて、聞き覚えのある声がヒロインの第一声を発した瞬間、プレイヤーは画面の向こうに別の作品の記憶を重ねる。一般アニメで看板キャラを演じる売れっ子の もう一つの仕事場 に行き当たった気配は、ファンに気まずい喜びをもたらしてきた。エロゲ声優文化(略称18禁声優、アダルトゲーム声優)とは、成人向けゲーム(いわゆるエロゲ)で女性キャラクターを演じてきた声優群と、彼女たちのキャリア形成・芸名運用に関する業界慣習の総称である。
概要
エロゲ声優は、Leaf・key・アリスソフト・ニトロプラス・August・ゆずソフト・ねこねこソフト等のビジュアルノベル 系メーカー、および抜きゲー 系メーカー(あかべぇそふと、エフォルダム、ルネ等)で稼働する女性声優を指す。男性キャラを演じる男性声優も存在するが、商業的に 声優の名前で売る 文化は基本的に女性側に偏ってきた。
業界の慣行として、エロゲでの仕事は本名・一般芸名と別の偽名(芸名) で行うのが一般的である。これは18禁作品のクレジットが一般作品の経歴に直接記載されないようにする配慮であり、後年の一般声優転向時に露見しても本人と一般メーカーが「別人」 として処理できる余地を残す慣行でもある。
歴史
録音媒体の確立(1990年代後半)
エロゲにフルボイスが標準実装され始めたのは1990年代後半である。それ以前は容量制限とコスト面でテキストのみの作品が主流だったが、CD-ROM 媒体の普及と PCM 圧縮技術の発展により、Leaf『To Heart』(1997) ・key『Kanon』(1999) など主要メーカーがフル/部分ボイスに踏み切った。この時期に活動していた水樹奈々・川澄綾子等の現役大手声優にも、初期キャリアにエロゲ出演歴があるとされる要出典。
隆盛期(2000年代)
2000年代はエロゲ全盛期と重なり、声優需要が業界全体で急増した。ニトロプラス『君が望む永遠』『鬼哭街』、Leaf『うたわれるもの』、key『AIR』『CLANNAD』、TYPE-MOON『Fate/stay night』(初期PC版は18禁) 等の話題作で、多数の専業エロゲ声優が看板を背負った。月読マニア (=折笠富美子)、青井美海、桐谷華、御苑生メイ、北都南、芳本鈴等、芸名でファン層を獲得した声優が業界を牽引する状況となる。
一般転向の流れと隠蔽(2000〜2010年代)
エロゲで地名度を獲得した声優の多くが、後に一般アニメ・吹替・ナレーション領域へ進出した。一般転向に際して芸名を変更し、過去の出演歴を公式プロフィールから消す処理が一般化したが、ファンの照合作業によって「中の人」 はおおむね特定されてきた。一方でメーカー側は、一般転向後の声優が出演した過去作を再販する際に クレジットを差し替える / 削除する 処理を行うこともある要出典。
コンシューマ移植と全年齢版
エロゲの人気作はコンシューマ機(Xbox 360・PS3・PSV・Switch 等)向けに全年齢版として移植されてきた。移植時には性描写を削除した上で、声優も差し替えるケースと同一声優を続投させるケースが分かれる。続投する場合、その声優は実質的に「エロゲ出身であることを公言する」 状態となり、近年は経歴を隠さずに活動する女性声優も増えた。
受容と業界の特殊性
喘ぎ声の演技力
エロゲ声優の専業性が問われるのは、いわゆる H シーンの長時間収録である。一本のシナリオで数十分から数時間に及ぶ喘ぎ・呼吸・感情演技を録り続ける体力と、キャラクターごとに声色を作り分ける技術が要求される。一般アニメと比較しても、ボイス収録時間あたりの感情消費が大きい領域として知られてきた。
ファンとの距離
エロゲ声優はラジオ・シチュエーションボイス ・即売会イベントを通じてファンとの距離が近く、声優本人のラジオ番組やトークイベントが商品の重要な販売チャネルとなる。ファンの側もまた、特定の声優の 声で抜く という体験を文化として共有しており、平面のキャラクター像に声を与える存在として声優を欲望対象にする回路が確立されている。
著名声優(芸名)
商業 PC エロゲで強いブランドを築いた声優として、月読アイ、楠鈴音、水稀みかん、味里、御苑生メイ、桐谷華、芳本鈴、結月そら、青葉りんご等の芸名が挙げられる。多くは別芸名で一般声優としても活動しているが、対応関係は公式に開示されないのが慣例である。
関連項目
最終更新
「エロゲ声優文化」の同人作品(DLsiteランキング)
参考文献
- 『美少女ゲームの臨界点』 波状言論 (2004)
- 『エロゲー文化研究概論』 総合科学出版 (2014)
- 『電撃G's magazine』 KADOKAWA — 声優インタビュー多数掲載
別名
- 18禁声優
- アダルトゲーム声優
- 一般転向声優