ブラウン管モニタの上に、ピクセル化された実物の女性の顔が映る。粗い解像度、減色されたパレット、JPEG圧縮の縞模様、それでも紛れもなく「描かれた絵ではない」質感が画面に宿る。CD-ROMをドライブに挿入し、起動を待つ間に冷却ファンが回り始める音、選択肢を選ぶたびに数秒間ロード中を示すアイコンが点滅する。文字が下に並ぶアドベンチャーゲームのウィンドウの上で、二次元のキャラクターでもなければ動画でもない、写真と動画の中間に位置する素材が、限られた表現幅で物語を進める。
実写エロゲ(じっしゃえろげ)は、実写映像・実写写真を素材として用いるアダルトコンピュータゲームの総称である。本項では1990年代のPC-98・Windows・MS-DOS環境で展開された実写取り込み系のアダルトゲームを中心に、その技術的成立条件、代表的形態、衰退の経緯を扱う。
概要
実写エロゲは、グラフィックの素材に2DCG・ドット絵ではなく実写写真または実写動画を用いるエロゲである。多くはアドベンチャー型・選択肢分岐型のフォーマットを取り、文字によるシナリオ進行と実写画像の表示を組み合わせる。1990年代前半から半ばに集中して発売され、CD-ROMドライブの普及とともに一時的なブームを成したが、その後はCG技術と同人2D絵文化の隆盛に押されて市場の主流から外れた。
技術的にはCD-ROM媒体の登場が決定的な前提条件となった。フロッピーディスクの容量(1.44MB)では実写画像をまとまった量で収録できず、CD-ROM(約650MB)が標準化された1990年代前半に初めて、ゲーム1本の中に数十枚から数百枚の実写素材を組み込む構成が可能になった要出典。
技術的特徴
解像度とパレット
PC-98時代の実写エロゲは、画面解像度640×400・16色パレットといった環境で動作した。実写写真をこの環境で表示するには、減色・ディザリング・パレット最適化といった画像処理が必要で、結果として独特の「粗い実写」表現が画面に現れた。同時代のドット絵CGとは異なる質感を持ち、後のレトロゲーム愛好者層には独立した美学として再評価される対象となっている。
Windows環境への移行後は、フルカラー表示が可能になり、JPEG圧縮を用いた高画質の実写素材を収録する作品が増えた。CD-ROM媒体の容量上限の中で、写真の枚数と画質のバランスを取る設計が、各作品の技術的個性を形作った。
動画素材
実写動画を素材として用いる作品は、QuickTime・MPEG・AVIといった動画フォーマットを採用した。CPUの処理能力上の限界から、低解像度・低フレームレートの短い動画クリップが断片的に挿入される構成が一般的で、フルスクリーン高画質の動画再生は1990年代末まで困難だった。動画素材を多用する作品は、必然的にデータ容量が大きくなり、CD-ROM複数枚組みの大作として発売される傾向があった。
取り込み系ゲーム
実写エロゲは、より広い「実写取り込みゲーム」の一カテゴリでもある。実写取り込みは1990年代初頭からアーケードゲーム・家庭用ゲーム機・PCの全領域で試みられた手法で、デジタル・ピクチャーズ社の『ナイト・トラップ』(セガCD、1992年)などの非アダルト作品も同時期に存在した要出典。実写エロゲはこの広い技術潮流のアダルト分野を担う形で発展した。
物語形式
アドベンチャー型
実写エロゲの主流形式は、テキストベースのアドベンチャーゲームに実写画像を組み合わせた構成である。プレイヤーは選択肢を選ぶことで物語を分岐させ、各分岐先で異なる実写シーンが提示される。一人称視点・主人公視点で物語が進行し、ヒロインとの会話・関係発展・性的シーンを順に体験する形式を取る。ノベルゲームの構造を共有しつつ、立ち絵・背景CGに実写素材を採用する点で区別される。
シミュレーション型
ヒロインとの関係をパラメータ管理する育成シミュレーション形式の作品も存在した。日々の行動選択がヒロインの好感度・体力・モラル等のパラメータに影響を与え、最終的なエンディングが分岐する構造である。実写素材は各イベントシーンで挿入され、パラメータの変動と組み合わせて物語が進行する。
コンプリート型・写真集型
物語性が薄く、ヒロインの実写写真をコンプリートする形式の作品もあった。ミニゲームをクリアすると新しい写真が解禁される、特定の選択肢を選ぶと隠し画像が見られるといった構造で、実質的にデジタル写真集に近い性格を持つ作品群である。
衰退の経緯
実写エロゲは1990年代後半から市場規模が縮小していった。複数の要因が重なった結果である。
第一の要因は、2DCG技術と同人文化の発達によって「美少女ゲーム」の主流が二次元イラストに収斂したことである。Leaf『雫』『痕』(1996-1997年)、『ToHeart』(1997年)、Key『Kanon』(1999年)といった2D絵中心のノベルゲームがヒットを連発し、市場の中心が二次元キャラクター方向に移った。
加えて、出演者の管理の困難さが商業的な障壁となった。実写素材を用いるには出演者(モデル・女優)の確保が必要で、撮影費・出演料は2DCGの制作コストよりも高額になる場合が多かった要出典。同人レベルでの参入が困難な領域だったため、市場の裾野が広がりにくかった。
視聴者層の嗜好の変化も大きい。実写素材を求めるユーザーは1990年代後半以降、アダルトビデオ・成人向け写真誌・後にインターネット動画へと流れ、ゲーム形式での実写コンテンツの需要は縮小した。
現在の位置
2000年代以降の実写エロゲは、市場の中心からは外れたが、特定のニッチジャンル(熟女もの、コスプレもの、特定モデルの専属作品)では発売が続いた。Windows対応の作品もあり、現在でも一部のメーカーから新作がリリースされている領域だが、全体規模としては小さい。
レトロゲーム愛好者・PC-98エミュレータユーザー層の間では、1990年代の実写エロゲは「時代を映す資料」として再評価される対象となっている。当時の解像度・パレット・収録媒体の制約のもとで成立した独自の美学は、現代のフルHD・4Kの表現とは別の感覚を持つ表現として参照される。
関連項目
最終更新
「実写エロゲ」の同人作品(DLsiteランキング)
参考文献
- 『美少女ゲームの臨界点』 波状言論 (2004)
- 『コンピュータゲームの神話学』 PLANETS (2016)
- 『電脳遊戯の少女たち』 DU BOOKS (2019)
- 『1990年代に業界を席巻した実写取り込みゲーム』 電ファミニコゲーマー (2018) https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/180529
別名
- 実写AVG
- 実写取り込みエロゲ
- 実写美少女ゲーム
- live action eroge