2023 年 7 月 13 日、改正刑法と並んで一本の新法が施行された。「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」、通称「盗撮処罰法」。それまで都道府県の迷惑防止条例で処理されてきた盗撮行為を、国の法律として全国一律で処罰する画期的な立法である。エスカレーターの背後でスマートフォンを構える行為、温泉の脱衣所での隠し撮り、性行為の隠し撮影。被害者の身体が画像として永久的に複製される犯罪類型に対し、ようやく統一された刑事処罰の枠組が用意された。
性的姿態撮影罪(せいてきしたいさつえいざい)とは、2023 年 7 月 13 日施行の「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(令和 5 年法律第 67 号、通称「盗撮処罰法」「撮影罪」)が定める犯罪類型の総称である。同意なき性的姿態の撮影・記録、その画像の提供・流通、保管などを独立した犯罪として処罰する。本項では立法経緯、主要規定、適用範囲、課題を扱う。
立法経緯
日本における盗撮の取締りは、長く各都道府県の「迷惑防止条例」によって処理されてきた。同条例は性的姿態の盗撮を「公衆に著しく迷惑をかける行為」として処罰するもので、最高 1 年の懲役又は 100 万円以下の罰金を科すのが通例だった。
しかし条例ベースの取締りには複数の構造的限界があった。条例は都道府県ごとに規定が異なり、行為地によって処罰範囲・量刑が不統一だった。商業施設・公共空間での撮影は処罰可能でも、私有地・住居内での撮影は条例の対象外となる場合があった。スマートフォン・小型カメラの普及により盗撮の手口が多様化したが、各条例の改正が追いつかない状況も続いた。
加えて、撮影行為そのものを処罰対象としない都道府県もあり、撮影画像の流通・保管に至っては条例の射程外となるケースが大半だった。被害者の身体が画像として永続化する性質を考えれば、撮影と同じく重大な行為であるにも関わらず、処罰の空白地帯が広範に残されていた。
これらの問題を踏まえ、法務省は 2021 年から 2023 年にかけて、性犯罪関連法制の包括的改正を進めた。2023 年 6 月、改正刑法(令和 5 年法律第 66 号、不同意性交等罪の創設)とともに、盗撮処罰法(令和 5 年法律第 67 号)が成立し、同年 7 月 13 日に両法ともに施行された。
主要規定
撮影罪(第 2 条)
第 2 条は「性的姿態等」を同意なく撮影する行為を処罰する。「性的姿態等」とは、(1) 性的な部位(性器・肛門・乳房等)、(2) 身に着けている下着のうち通常衣服で隠されている部位、(3) わいせつな行為又は性交等に関する姿態を意味する。
処罰対象となる撮影類型は、(a) 同意のない撮影(意思表示が困難な状態の利用を含む)、(b) 撮影の事実・状況を誤信させる方法による撮影、(c) 通常着衣で隠されている部位の撮影、(d) 13 歳未満の児童の撮影 (同意の有無を問わず処罰)、(e) 13 歳以上 16 歳未満の児童に対し撮影者が 5 歳以上年長である場合の撮影 (同様に同意の有無を問わない)、などがある。法定刑は 3 年以下の拘禁刑又は 300 万円以下の罰金。
提供・公然陳列罪(第 3 条)
撮影によって作成された性的影像記録を、第三者に提供する行為、公然と陳列する行為(インターネット上のアップロード等)を処罰する。法定刑は 3 年以下の拘禁刑又は 300 万円以下の罰金。不特定又は多数人への提供・公然陳列は 5 年以下の拘禁刑又は 500 万円以下の罰金で加重される。
保管罪(第 4 条)
前条 (提供罪) の行為をする目的で性的影像記録を保管した者を処罰する。法定刑は 2 年以下の拘禁刑又は 200 万円以下の罰金。 これにより、 撮影の現場を押さえなくても、 画像を保管していた事実だけで起訴することが可能となった。
録画罪(第 6 条)
第 6 条はライブストリーミング配信される性的姿態等の影像を、 そのようなものであると知りながら録画する行為を処罰する。法定刑は 3 年以下の拘禁刑又は 300 万円以下の罰金。
影像消去命令(第 7 条以下)
押収された性的姿態等の影像について、裁判所は被害者の請求を待たずに消去・複製不能化を命じる権限を持つ。これは画像が一度ネット上に拡散すれば回収不能となる性質を踏まえ、被害者の人格権保護を制度化した規定である。
適用範囲
撮影罪の適用範囲は広い。エスカレーター・電車内・公衆トイレ・更衣室・宿泊施設・私邸等、撮影場所による制限はない。スマートフォン・小型隠しカメラ・ドローン・盗撮アプリ等、撮影手段による制限もない。
成人間の同意ある性行為を一方が撮影したケース、撮影は同意したが画像の流出は同意していないケースなど、同意の範囲をめぐる事例で適用が問われる場面が増えている。施行後の運用実績は法務省・警察庁の年次統計で公表され、毎年数百件規模の検挙が継続的に記録されている。
リベンジポルノ防止法・児童ポルノ法との関係
性的姿態撮影罪は、隣接する三つの法令と適用範囲を分かち合う。(1) 公開を目的とする画像流出はリベンジポルノ防止法(2014 年成立)、(2) 児童(18 歳未満)を対象とする撮影は児童ポルノ法、(3) 18 歳以上の同意なき撮影が性的姿態撮影罪、という棲み分けが基本である。実務では複数の罪状を併合起訴するケースが多い。
迷惑防止条例による処罰も並存しており、軽微な事例(着衣の上からの盗撮等)は条例で、重大な事例(性器露出を伴う盗撮等)は撮影罪で処理する運用が定着しつつある。
課題
施行後の運用実績は、(1) 海外サーバーに移管された違法画像の消去執行の困難、(2) 電子的に拡散した画像の回収不能性、(3) 過去に公開された画像の遡及的取締りの限界、などの課題を浮き彫りにしている。実効的被害者救済のためには、国際的協力枠組の強化、プラットフォーマーへの削除義務の制度化、被害者支援制度の拡充が継続的に検討されている。
関連項目
最終更新
参考文献
- 『性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律』 法律 第67号 (2023) https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067
- 『性犯罪規定の改正』 (2023) https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji14_00029.html
- 『刑法等の一部を改正する法律(令和5年法律第66号)』 法律 第66号 (2023)
別名
- 性的姿態撮影処罰法
- 撮影罪
- 盗撮処罰法
- photographing sexual images law