2002 年から 2003 年にかけての日本社会、新聞紙面は連日、出会い系サイトを介した児童買春・性犯罪・自殺のニュースで埋め尽くされていた。携帯電話の i モードから手軽にアクセスできる「出会い系」は、2000 年代前半の日本独特のメディア生態系として急速に普及し、それに伴う負の事件も急増していた。当時の警察庁統計では、出会い系サイトを介した児童買春事件の検挙人員は年間数百人規模に膨れ上がっていた。法整備への政治的圧力は急速に高まり、2003 年 6 月、議員立法として「出会い系サイト規制法」が成立した。
出会い系サイト規制法(であいけいさいときせいほう)とは、2003 年 6 月成立、同年 9 月 13 日施行の「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(平成 15 年法律第 83 号)の通称である。出会い系サイトを介した児童買春・性犯罪等を防止するため、利用者の児童誘引行為の処罰、事業者の届出義務・年齢確認義務などを規定する。本項では立法経緯、主要規定、2008 年改正、その後の運用を扱う。
立法経緯
1999 年成立の児童買春・児童ポルノ法は、児童(18 歳未満)に対する買春・ポルノ製造を直接処罰する枠組を確立した。しかし出会い系サイトを介する誘引行為そのものは同法の射程外で、(1) 児童側からの性的サービス提供の申し出への呼応、(2) 児童に対する性的サービス提供の誘引、(3) 金銭的対価を申し出ての児童への性交渉誘引などが、構成要件のグレーゾーンに残されていた。
2000 年代前半の出会い系犯罪急増を受け、警察庁・法務省は事業者規制と利用者規制の二本立てによる総合的法整備を検討した。2003 年 5 月、超党派議員提案の議員立法として法案が国会提出され、6 月に成立、9 月 13 日に施行された。
主要規定
児童誘引行為の禁止(第 6 条)
第 6 条は、出会い系サイトを利用して児童に対し以下の行為を勧誘・誘引することを禁止する。(1) 児童を相手方とする対償を伴う性交等の誘引、(2) 児童に対する対償を伴う性交等の相手方となる旨の誘引、(3) 児童に対する性交等の誘引、(4) 児童による性交等の相手方となる旨の誘引、(5) 児童に対する金品授受を伴う面会の誘引、(6) 児童による金品授受を伴う面会の相手方となる旨の誘引。
違反者には 100 万円以下の罰金が科される。これは利用者(成人男性が大半)を直接対象とする規制で、児童側を処罰の対象から明示的に除外する構成を取っている。
事業者の届出義務(第 7 条)
第 7 条は、インターネット異性紹介事業者(出会い系サイト運営者)に対し、事業の名称・所在地・代表者氏名等を都道府県公安委員会へ届出する義務を課した。無届出営業は 100 万円以下の罰金。
年齢確認義務(第 11 条)
第 11 条は、事業者が利用者に対し、児童(18 歳未満)でないことを確認する義務を課した。具体的方法として、(1) 運転免許証等の本人確認書類の提示、(2) クレジットカード番号の通知、(3) その他施行規則で定める方法、を義務化した。
児童誘引書込み等への防止措置(第 12 条)
第 12 条は、事業者が児童誘引行為の書込みを発見した際に、 速やかに当該書込みの削除等の必要な措置をとる義務を課した。
利用の禁止の明示(第 10 条)
第 10 条は、事業者が広告・サイト上の利用開始画面等で「児童は利用してはならない」 旨を明示する義務を課した。利用そのものの段階で児童を排除するための表示義務である。
2008 年改正
2003 年法は、(1) 事業者の所在把握が困難で取締りが行いにくい、(2) 海外運営の出会い系サイトに対する執行力の限界、(3) 年齢確認が利用者の自己申告で足りる運用となっていた実効性不足、などの問題を抱えていた。2008 年 6 月、改正法が公布され、同年 12 月 1 日に施行された。
主な改正点は、(1) 事業者に対する都道府県公安委員会への届出義務の新設(2003 年法には届出義務がなかった)、(2) 年齢確認方法の厳格化(運転免許証等の本人確認書類またはクレジットカード決済による確認を原則化、自己申告のみによる確認の不許容)、(3) 業務改善命令・事業停止命令等の処分権限の整備、(4) 違反事業者・無届出営業への罰則の整備(無届出営業は 6 か月以下の懲役または 100 万円以下の罰金)、などである。年齢確認の厳格化は施行規則の改正と連動し、2009 年 2 月から本人確認書類等の徴求が原則となった。
適用と運用
施行後の運用は、警察庁の年次統計で確認できる。法施行翌年の 2004 年、出会い系サイトに起因する児童買春・児童ポルノ・売春防止法違反等の検挙件数は約 1,800 件、被害児童数は約 720 人と記録された要出典。2008 年改正以降、被害件数は徐々に減少傾向を辿り、2010 年代後半には数百件規模まで縮小した。
ただし、出会い系サイトの「外側」、すなわち SNS・コミュニティサイト・チャットサービス等を介する児童被害は減少していない。2010 年代以降、Twitter(現 X)、Instagram、LINE、TikTok、出会いマッチングアプリ等、規制対象外のプラットフォーム経由の事案が増加し、警察庁統計では「コミュニティサイト被害」として集計される事案が出会い系サイト被害を上回る規模となっている。
隣接法令との関係
児童買春・児童ポルノ法は児童に対する買春・ポルノ製造を直接処罰し、本法は出会い系サイト経由の誘引段階を処罰する。両者は被害事案の段階によって使い分けられる。同様に、児童ポルノ法は児童ポルノの製造・提供・所持を処罰し、本法はその上流の出会いの場の規制を担う。三法を組み合わせることで、児童保護の法的枠組が立体的に構成されている。
ゾーニング法制・各都道府県の青少年保護育成条例・迷惑防止条例等とも連動して運用されており、児童保護の総合的法体系の一翼を担う。
関連項目
最終更新
参考文献
- 『インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律』 法律 第83号 (2003) https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000083
- 『出会い系サイトに起因する事犯の検挙状況』 警察白書 (2010)
- 『出会い系サイト規制法の解説』 立花書房 (2008)
別名
- 出会い系サイト規制法
- 児童異性交際勧誘行為等規制法
- インターネット異性紹介事業規制法
- online dating site regulation