夜の河川敷、森林の遊歩道、人気のない海岸線、駐車場の片隅——閉ざされた壁を欠いた場で交わされる性愛は、屋内のそれとは異なる緊張に支えられる。風の音、遠くの車のヘッドライト、誰かが通りかかるかもしれないという不確実性。野外という嗜好の核は、空間そのものが行為の意味を書き換える点にある。
野外(やがい)とは、屋外空間において性愛行為または身体の露出を行う嗜好、およびその実践形態を指す業界用語・サブカルチャー用語である。住居・建築物の壁面によって閉鎖された私的空間ではなく、公園・河川敷・海岸・山林・路上・自動車内・屋上等の屋外的空間を行為の場とすることに主題的特徴を置く。英語圏では outdoor sex ないし al fresco sex(al fresco はイタリア語「戸外で」由来)の語形で対応し、英国を中心とする dogging 文化はその発展形態の一つを構成する。日本のアダルトビデオ業界では「野外モノ」「野外露出」が定着ジャンルとして長期間流通する。本項では実践類型、法的位置づけ、露出フェチとの差異、海外比較について述べる。
概要
野外という嗜好の核となるのは、空間の性質が行為に与える効果である。屋内の閉鎖空間における性愛局面は、空間自体が私的領域として既定化されており、当該空間内で行われる行為は社会的に「想定された」ものとして位置づけられる。これに対し屋外空間は、交通・通行・散策等の公共的機能を本来の用途とし、性愛行為は当該空間の用途から逸脱した使用法として現れる。当該逸脱性が、参加者の心理に「場違い」「逸脱」「発覚の可能性」という独特の緊張を生み、当該緊張そのものが興奮源として機能する構造が指摘される。
野外実践の主題は (1) 場所的逸脱(本来の用途と異なる使用)、(2) 発覚可能性(第三者に見られるかもしれない不確実性)、(3) 自然環境との接触(草、土、水、風、星空等)、の三層に整理される。(1) と (2) は公開プレイ・露出とも共有される主題であるが、(3) は野外固有の主題であり、自然環境への身体的開放感そのものを志向する一群の実践者の存在が指摘される。
実践類型は、合意・場所・公然性の三軸から類型化される。(a) 完全な人気のない場所での合意ある二者行為、(b) 半公共空間(夜間の公園、人気のない駐車場等)における合意ある二者行為、(c) 第三者の目撃を期待する露出型実践、(d) 第三者の参加を伴う集団的実践(英国 dogging 等)、の四類型が区別される。(a) は法的にもグレーゾーンの上端に位置づけられるのに対し、(c)(d) は公然わいせつ罪・関連法令の適用対象となる蓋然性が高い領域である。
語源と用法
「野外」は和語複合「野」+「外」の漢語的読み下しに由来し、本来「家屋・建造物の外側」「屋外」を意味する一般語である。性愛文脈における「野外」の語用は、20 世紀後半のアダルトビデオ業界におけるジャンル分類用語として定着したものと考えられる。要出典「野外プレイ」「野外露出」「野外セックス」等の派生語形は、1980 年代以降のアダルトメディアの普及とともに広範に流通するに至った。
英語圏における対応語は outdoor sex が最も一般的であり、文学的・婉曲的表現として al fresco sex(al fresco はイタリア語 al fresco「冷気の中で=戸外で」から)が併用される。英国の俗語 dogging は、夜間の駐車場・人気のない屋外空間で性愛行為を行い、第三者の観覧・参加を伴う独特の実践形態を指し、1990 年代以降の英国メディアにおいて社会現象として論じられた経緯を持つ 要出典。
法的位置づけ
日本における野外性愛の法的位置づけは、刑法 174 条(公然わいせつ罪)を中心軸として論じられる。同条は「公然とわいせつな行為をした者」を処罰の対象とし、「公然」とは「不特定または多数の者が認識し得る状態」を意味するとされる(判例・通説)。この解釈に従えば、たとえ実際に第三者の目撃がなかった場合でも、第三者の認識可能性が客観的に存在した場合には構成要件を充足し得る。
すなわち、参加者間に完全な合意があっても、(1) 場所的に第三者の通行・視認の可能性がある、(2) その可能性が客観的に観察される、という条件が揃えば、刑法 174 条の構成要件該当性が認められる余地が生ずる。判例においては、深夜の公園、無人と思われた駐車場、人気のない海岸等での事案でも、当該場所が「不特定者の認識可能性」を完全に排除できない以上、有罪認定された事例が散見される 要出典。
風俗営業適正化法、軽犯罪法 1 条 20 号(身体露出)、各都道府県の迷惑防止条例等も周辺的に問題となる。とりわけ近年のアダルトビデオ業界における野外撮影は、AV 新法成立以前から自主規制の主要対象であり、「人通りのない閉鎖的なロケーションの確保」「事前許可取得」「速やかな撤収」等の運用ガイドラインが業界内で共有されてきた経緯を持つ。
露出フェチとの差異
野外と露出は近接概念であり混用されることが多いが、主題上の差異が学理的に指摘される。両者の差は「行為の場」(野外)と「見られること」(露出)の焦点の置き方にある。
露出フェチの主題は「他者の視線に身体・行為を晒すこと」そのものであり、視線の存在(現実的または想像上の)が興奮の中心軸を構成する。屋内の公開プレイ、合意ある観客のもとでのプレイ、SNS への画像投稿等、視線を伴う実践であれば屋内・屋外を問わず同一カテゴリに属する。これに対し野外フェチの主題は「屋外空間において行為すること」であり、第三者の視線の有無ではなく、空間の屋外性そのものが興奮源として機能する。完全な人気のない山林・無人島等の場であっても、野外性は維持される。
実際の実践においては両者は重畳することが多く、(a) 純粋な野外型(自然環境との接触を志向、視線の有無を問わない)、(b) 純粋な露出型(視線を志向、屋内外を問わない)、(c) 重畳型(屋外で第三者の目撃可能性を志向)、の三類型に整理される。(c) は両概念の交差領域として、最も流通する実践形態であり、アダルトビデオ等の表象文化においても主流をなす。
アダルトビデオにおける「野外モノ」
アダルトビデオ業界における「野外モノ」は、撮影場所を屋外空間に設定する企画ジャンルの総称である。1980 年代の初期アダルトビデオから現在に至るまで、長期にわたり安定した需要を持つ定番ジャンルの一つとして位置づけられる。サブジャンルには、(1) 純粋な屋外撮影(山林、河川敷、海岸等)、(2) 半公共空間撮影(電車内、駅構内、繁華街等)、(3) 露出企画(パンチラを組み込んだ街頭ロケ等)、(4) ハメ撮り野外型(私的撮影風の演出を組み合わせた形態)、等が区別される。
藤木 TDC『アダルトビデオ革命史』(2009 年)は、1980 年代以降のアダルトビデオ業界における野外モノの位置づけを論じ、屋内スタジオ撮影の定型化に対する「現実感」「逸脱感」の補完装置として、当該ジャンルが反復的に再生産されてきた様態を記述する。撮影現場の実態としては、ロケ地交渉・天候管理・通行人対応・速やかな撤収等の運用上の制約が大きく、業界内では「最も労力対効果の悪いジャンルの一」とも評されると指摘される 要出典。
ハメ撮り形式との結合は野外モノの主流的展開であり、「素人感」「現実感」の演出装置として、屋外空間の偶発性・非定型性が積極的に利用される。当該系列の作品群は、1990 年代から 2000 年代にかけてアダルトビデオ市場の主要セグメントを形成した。
海外比較: dogging と outdoor culture
英国を中心とする dogging 文化は、野外性愛実践の特異的発展形態として国際的に注目を集めてきた。dogging の語源は不詳ながら、「犬の散歩を装って屋外性愛現場に近寄る」「犬の散歩のふりをして観察する」等の起源譚が複数流通する 要出典。実践形態としては、夜間の公衆駐車場・公園・人気のない屋外空間において車両内で性愛行為を行い、第三者の観覧・参加(限定的な集団行為)を許容する独特の慣行として知られる。
David Bell の社会学研究 “Dogging: A Public Sex Practice in the United Kingdom”(2006 年)は、当該実践を英国独自の「公共空間における匿名的性愛コミュニティ」として位置づけ、インターネット黎明期のフォーラム文化と連動した発展経緯を記述する。dogging 専門の SNS・位置情報共有サイトの存在は、当該実践の社会的可視性を高めると同時に、刑事法的・地域社会的な対立を持続させる要因ともなってきた。
米国の野外性愛文化は、自動車文化(parking、making out in the car)、ヌーディスト・ビーチ文化、性愛主題のリゾート文化等が複合した展開を見せ、欧州大陸における伝統的な裸体主義(naturism)・FKK(Freikörperkultur、ドイツ語「自由身体文化」)との連続性を持つ。北欧のnaturism文化、ドイツの FKK 海岸・サウナ文化等は、性愛文脈と離れた身体的開放を主題化する系列であり、本項の野外性愛とは主題上区別されつつも、屋外空間の身体的解放という基本主題を共有する周辺領域として位置づけられる。
文化的言及
文学・映画における野外性愛の表象は古典的に蓄積されてきた。D・H・ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』(1928 年)における森の中の性愛場面、谷崎潤一郎の作品群における自然描写と性愛の連動等は、屋外空間と性愛の主題的結合の文学的系譜の代表例である。日本の春画・浮世絵にも野外場面の作例は散見され、野外性愛の主題化が前近代から連続する文化的系譜の存在を示す。
戦後のピンク映画・ロマンポルノにおいては、屋外ロケが予算的制約とも結びついて頻用される撮影手法となり、結果として野外性愛場面が当該ジャンルの定番要素として定着した。日活ロマンポルノの一部作品群における野外場面の頻出は、当該ジャンルの美学的特徴の一つとして指摘される。
近年の社会的議論としては、SNS 時代における野外性愛画像の拡散・暴露・第三者撮影問題が新たな論点として浮上した。当事者間の合意があった行為であっても、第三者による撮影・公開がリベンジポルノ・盗撮等の問題と接続することで、新たな法的・倫理的課題を構成している。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『刑法各論』 東京大学出版会 (2015) — 刑法 174 条公然わいせつ罪・公然性概念の解釈
- 『性の用語集』 講談社現代新書 (2004)
- 『アダルトビデオ革命史』 幻冬舎新書 (2009)
- 『Dogging: A Public Sex Practice in the United Kingdom』 Sexualities (SAGE Publications) (2006)
- 『性風俗の近現代史』 筑摩選書 (2014)
- 『刑法 174 条(公然わいせつ罪)』 e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
別名
- outdoor
- 野外プレイ
- 野外露出
- outdoor sex
- dogging