新宿歌舞伎町の地下、無人受付のタッチパネルで料金を払い、暗証コードでドアが開く。中には等身大のシリコン製ラブドールが横たわっている。九十分一万円、シャワーとコンドームと使い切りローション付き、店員は出迎えにも立ち合いにも来ない。利用後はドール本体が自動洗浄装置の前に運ばれ、次の客のために整えられる。これがいわゆる「ダッチワイフ風俗」である。
ダッチワイフ風俗(だっちわいふふうぞく)とは、人間の女性を介さず、シリコン製または TPE 製の等身大ラブドールを相手にした個室時間貸しサービスを提供する業態である。「ドール風俗」「ラブドールヘルス」とも呼ばれる。2010 年代後半にスペイン・ドイツで先行登場し、日本でも 2020 年前後に複数店舗が出現した、性風俗業の新興分岐である。
業態の仕組み
基本は時間制の個室レンタルである。利用者は専用受付または無人タッチパネルでメニューと利用時間を選択し、室料込みで 1 万円から 3 万円程度を支払う。各室には一体ずつラブドールが設置されており、複数のメーカー(オリエント工業・JY DOLL 等)の製品から客が選べる店舗もある。利用時間は 60 分から 120 分が標準で、シャワー・ローション・コンドームが室内に常備される。
衛生管理が業態の生命線となる。多くの店舗が一回ごとに専用洗浄スタッフが個室入りしてドールを洗浄・乾燥・粉打ち処理を行う運用を取り、コンドーム着用を必須としている。シリコン製ボディは雑菌付着しにくいが、関節内部やシリコン表面の劣化対策として、ドール一体あたりの稼働回数を 1 日 5 回以内に制限する事例もある要出典。
法的位置づけは曖昧である。「人間の従業員が客と接するわけではない」ため風営法上の「店舗型性風俗特殊営業」に当てはまらないとする見解と、「実質的に売買春類似サービス」とみなして規制する見解が分かれている。日本では明確な摘発事例はなく、現行法のグレーゾーンで運営されている状態が続いている。
歴史
世界初のドール風俗店として広く報道されたのは、2017 年バルセロナ開業の「LumiDolls」である。同店は 4 体のドールを 80 ユーロ/30 分で貸し出し、開店直後から世界中のメディアに取り上げられた。直後にドイツ・ロシア・カナダにも同型店舗が出現し、欧州で「sex doll brothel」のジャンルが確立する。
日本での先行事例は 2018〜2020 年にかけて東京・大阪に開業した数軒の店舗である要出典。先行店はオリエント工業・国産メーカーのドールを揃え、料金は欧州型より高めの 90 分 2 万円前後に設定された。コロナ禍で対人接触型のファッションヘルスが休業を強いられた 2020 年、無人接客のドール風俗は一時的な代替需要を取り込み、メディア露出が増えた。
受容の構造
利用者層は二系統に分かれる。一つはラブドール愛好者層で、自宅にドールを置けない事情(同居家族・住宅事情)から、月数回の店舗利用で代替する人々である。もう一つは性風俗一般の利用者で、人間の女性とのトラブル回避・衛生不安・社交コスト回避から、無人接客のシンプルさを選ぶ層である。
倫理的な議論は欧州を中心に活発である。Kathleen Richardson らの「Campaign Against Sex Robots」は、ドール風俗が「人間の女性を物として扱う心理を強化する」と批判する一方、利用者・支援者側は「人間の性労働者を傷つけずに済む代替供給」「孤独の慰撫」を反論として挙げる。日本国内では、児童型ドールの店舗利用禁止が業界自主規制として明文化され、表面上は成人体型のみで運用されている。要出典
関連項目
最終更新
参考文献
- 『ラブドールと共に生きる』 毎日新聞出版 (2021)
- 『Sex Robots and Vegans』 Routledge (2024)
- 『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律』 日本国法令 (1985)
別名
- ラブドール風俗
- ドール風俗店
- sex doll brothel
- silicone doll