ビッグサイトの東館の壁から離れた島の最後尾、長机一本に同人誌を並べ、奥にカラーボックスとビニール袋。サークル代表が座り、隣に手伝いの友人。机の前には、初日の朝から並んでいた読者が、押されるように一冊ずつ買っていく。発行部数は数百、頒価は千円前後、一冊一冊が、印刷所への入稿日と版元への支払いと、徹夜の作業の終わりを物語る物体である。エロ同人サークル(えろどうじんさーくる)とは、成人向け同人作品を制作・頒布する個人または小規模団体の総称であり、即売会出店・委託販売・電子配信を通じて作品を流通させる業態である。商業出版とは独立した制作・流通体系を維持しつつ、二〇〇〇年代以降に小規模出版業として確立した日本のサブカル産業の構成要素となっている。
サークルの定義
「サークル」という呼称は、本来は学校の同好会・愛好会的な小集団を指す語であったが、同人誌即売会の歴史の中で、参加者の制作単位の呼称として転用された。即売会への参加を申し込む単位は団体ではなく「サークル」と呼ばれ、申込書類・配置区画・スペース割り当てがすべて「サークル単位」で行われる。一人で活動していても、即売会への申し込みは「サークル」名義で行うため、結果的に個人作家もサークル代表として活動する形になる。
エロ同人サークルは、この同人サークル制度の中で成人向け作品を扱うサークルを指す。コミケでは成人向けと一般向けが配置区画で分けられ、成人向け同人誌は会場でビニール袋に封入して頒布する規定が設けられている。サークル名簿・カタログにも成人向けマークが付され、購入時に年齢確認が行われる場合がある。
業態としての成立過程
同人サークル全体の歴史は、コミケ初回(一九七五年十二月)を起点として論じられることが多い。当初の同人誌は、漫画評論・パロディ・少女漫画系の作品が中心で、成人向け作品の比重は限定的であった。一九八〇年代のロリコンブーム以降、成人向け作品を扱うサークルが急増し、商業誌では出せない題材を扱う場としての位置付けが強化された。
一九九〇年代に入ると、同人誌印刷を専門とする印刷所(同人専門印刷所)の業態が確立し、少部数(三〇〇〜一〇〇〇部程度)でも商業出版に近い品質の冊子を制作できる環境が整った。栄光、緑陽社、サンライズなどの印刷所がサークル向けに料金プランを公開し、入稿規定・割引制度・即売会搬入サービスを定形化した。
一九九〇年代後半から二〇〇〇年代にかけては、ホビー雑誌・成人向け雑誌の発展と並行して、成人向け同人作品の作家層が拡大した。クリムゾン(代表的な人気サークルの一つ、二次創作中心)、にゅう工房、田中エイト系列など、固定読者を持つサークルが登場し、一冊数千部の規模で頒布する個人サークルも珍しくなくなった。
サークル運営の典型
エロ同人サークルの運営は、以下のような業務サイクルで構成される。
まずネタの企画・原作選定がある。オリジナル作品を扱うか、既存の漫画・アニメ・ゲームの二次創作を扱うかの方針決定が、サークルの方向性を規定する。次に作画・脚本作業があり、一冊あたり二〇〜八〇ページ程度の漫画、もしくは短編複数本、CG 集、小説などの形態で原稿を仕上げる。完成した原稿を印刷所に入稿し、印刷代と紙代を支払って完成品を受け取る。
頒布チャンネルは複数並行する場合が多い。第一に即売会出店で、コミケ・コミティア・赤ブーブー通信社主催のオンリーイベントなどに出店して直接頒布する。第二に同人ショップ委託で、メロンブックス・とらのあななどの実店舗とそのオンライン通販に委託販売する。第三に電子配信で、DLsite・FANZA 同人・Booth・DMM などのプラットフォーム経由で電子データを販売する。
サークルの収益構造は、一作品あたりの印刷代・委託手数料・電子配信手数料を引いた残額として計算される。固定費は印刷費(三〇万〜一五〇万円程度)が中心で、人気サークルでは在庫リスクを抑えながら売上を最大化することが運営の核となる。
二次創作と一次創作
エロ同人サークルが扱う題材は、大きく二次創作と一次創作(オリジナル)に分かれる。
二次創作は、既存の商業作品(漫画・アニメ・ゲーム)のキャラクターを借用して描く形式で、日本の同人文化において主流の形態である。著作権上の位置付けは権利者の暗黙の容認に基づく不安定な状態で、明示的な許諾はないものの、長らく業界慣行として継続してきた。一部の権利者(任天堂、集英社の一部作品など)は明示的な制限を出しており、サークル側はその制限を踏まえて題材を選ぶ必要がある。
一次創作は、サークル独自のキャラクター・世界観で描く形式で、二〇〇〇年代以降に商業同人としてDLsiteを中心に成長した。商業作品からの離脱性が高く、サークルそのものをブランドとして読者に認知させる戦略が機能する領域である。コミティア(オリジナル作品限定の即売会)に出店するサークルが、一次創作系の主要な活動拠点として継続している。
商業出版との往復
エロ同人サークルからは、しばしば商業誌に進出する作家が輩出される。同人誌で発表した短編が編集者の目に留まり、成人向け雑誌の連載やエロ漫画単行本のオファーにつながる経路が、戦後を通じて常態化している。逆に、商業誌で連載中の作家がサークル名義で同人活動を並行する例も多く、商業と同人の間を往復する作家層が、日本のエロ表現の人材プールを形成してきた。
サークルが法人化して商業活動に踏み出す例もあり、たとえば人気サークルが LLC・株式会社を設立してアニメ化・ゲーム化を行うケースも確認できる。同人と商業の境界は、二〇一〇年代以降のDL 同人文化の進展でさらに融解しつつある。
関連項目
最終更新
「エロ同人サークル」の同人作品(DLsiteランキング)
参考文献
- 『コミックマーケット30'sファイル』 青林工藝舎 (2005)
- 『エロマンガ・スタディーズ』 イースト・プレス (2006)
- 『Adult Manga: Culture and Power in Contemporary Japanese Society』 Curzon Press (2000)
- 『戦後マンガ50年史』 筑摩書房 (1995)
- 『日本初で最大級の同人作品DL販売サービス『DLsite』成長の裏と次なる一手』 PR TIMES STORY 株式会社エイシス https://prtimes.jp/story/detail/qb6818SMW5x
別名
- 成人向け同人サークル
- 18禁同人サークル
- エロ同人作家
- 個人サークル