渋谷の街角、午後三時、買い物袋を提げた女性に声をかけるカメラマン。「いま街頭インタビューやっていまして」と切り出して、最初の数分はカメラの前で軽く笑う。質問が少しずつ私的な領域に踏み込み、ホテルの場所が話題に上り、近くのコーヒーショップに移動する頃には、女性は既にこの撮影が AV であることを承知している。
街ナンパもの(まちなんぱもの)は、街頭で素人女性に声をかけて撮影に応じてもらう設定のAV 企画ものジャンルである。本項ではソフト・オン・デマンド(SOD)の「マジ軟派、初撮。」シリーズなど代表シリーズ、撮影手法、素人性の演出構造、ジャンル内の派生形態を扱う。
概要
街ナンパものは、商業 AV 業界のナンパ文化を起源とする企画ジャンルで、(1) 街頭で女性に声をかける、(2) インタビュー・撮影への協力を取り付ける、(3) ホテル・撮影場所への移動、(4) 撮影本番、という一連の時系列を画面に並べる構成を持つ。
東京の渋谷・新宿・原宿・池袋、大阪の難波・心斎橋、福岡の天神等の繁華街を主な撮影場所とし、街の喧騒・通行人・商店街の看板といった背景が画面に映り込むことで、「街頭の偶然性」をジャンルの核心的演出として機能させる。実在の街並みを背景に、被写体の「街にいた一般人」性を強調する手法である。
代表的シリーズ
ソフト・オン・デマンド系
ソフト・オン・デマンド(SOD)は、街ナンパものの分野で代表的なメーカーの一つとして長年知られる。「マジ軟派、初撮。」シリーズは、SOD の主力企画シリーズの一つとして長期続編が継続されており、街頭ナンパから撮影までの流れを毎回の定型として定着させた。
「マジ軟派」シリーズの構成は、(1) 街頭でのナンパシーン、(2) カフェ・ファミレスでのトーク、(3) ホテルへの移動、(4) ホテル撮影、という四段階の時系列を一本に収める。ナンパパートを充実させ、対象女性の素の反応を画面に残す方針が、シリーズの差別化要素となっている。
マジックミラー号系
マジックミラー号シリーズは、街頭ナンパに特殊車両(外から見ると鏡張りの密閉車両)を組み合わせた派生型の企画である。街頭で「アンケートに協力」「マッサージ体験」等の口実で車内に呼び込む構成で、街ナンパものの撮影手法を進化させた変則型として、独立シリーズとして長期継続している。
ジャンル内では街ナンパものとマジックミラー号は隣接した派生関係にある。両者は「街頭の偶然性」と「車内の密室性」のバランスが異なる二つの方向性を提示している。
他レーベルの追随
街ナンパものは SOD の専売ではなく、複数メーカーが類似企画を展開している。ナチュラルハイ、勝利、各社の「ナンパ天国」「○○の街でナンパ」「素人捕獲」等のシリーズが並行して存在し、ジャンル全体としての層厚を形成している。
撮影手法
ロケ撮影
街ナンパものの撮影は、実在の繁華街でのロケ撮影が前提である。固定カメラ・手持ちカメラ・ピンマイク・ガンマイクを駆使して、街の音響・視覚情報を収録しながら被写体に近接する。撮影クルーは少人数(2-4 名)で、目立たないように機材を抑える設計が標準である。
ロケ撮影には、(1) 通行人・店舗からの撮影許諾、(2) 警察・自治体への届出、(3) 個人情報の映り込みの処理(モザイク等)、といった事務的な制約が伴う。実際の撮影では、これらの制約に対応するため事前のロケハン・許諾取得が周到に行われる。撮影に映り込んだ通行人・看板・店舗等は、編集時にマスキング処理される。
キャスティング
街ナンパもののキャスティングは、(1) 完全な素人女性、(2) 業界関係者・モデル事務所所属者、(3) AV 経験者の偽装素人、の三層が混在するとされる要出典。
実際の街頭ナンパで応じる確率は極めて低く、またAV 新法の制定後は契約手続きの複雑化により完全な路上飛び込み型の撮影は困難となっている。「街頭ナンパ」という体裁を維持しつつ、事前の応募・キャスティングを経て、撮影当日に「街でのナンパ風」シーンを撮影する制作方法が業界内で標準化している。
ジャンルとしての楽しみ方は、「街頭で偶然出会った素人」というドラマ的フィクションを観客側も承知の上で消費するという、ある種の演劇契約に基づいている。
素人性の演出
「素」の保存
街ナンパもののジャンル的特徴は、被写体の「素」の表情・言葉・反応を画面に残そうとする志向である。プロの AV 女優が見せない「初撮りの戸惑い」「私生活の話題」「家族・恋人の話」「学校・職場の話」を引き出すインタビューが、撮影シーン以外の時間で多用される。
被写体の名前・年齢・職業・趣味・恋愛経験等を聞き出すパートが画面の前半を占め、本撮影シーンに入る前にキャラクターを観客に印象付ける構造が定型である。本撮影に入った後も、行為のあいだに会話を挟み、被写体の素の人柄を画面に残し続けることが、ジャンルの核心的価値となっている。
街の質感
ロケ撮影による街の質感は、ジャンルの不可欠な構成要素である。街頭の通行人、店舗の看板、駅前の喧騒、信号待ちの空気感、こうした「街の生の質感」が画面に映り込むことで、撮影が現実の街で起きている実感が観客に届く。
ホテル移動シーンの「タクシーの車内」「電車の中」「徒歩で歩く街並み」等のトランジションも、街の質感の延長として機能する。スタジオ撮影では再現できないリアリティが、ロケ撮影特有の素材として用いられている。
ジャンルの倫理的位置
街ナンパものは、撮影同意の真正性をめぐって、ジャンルとしての倫理的議論を継続的に抱えてきた。「事前に契約済みの出演者を使った演出ナンパ」と「実際の街頭撮影で同意を取った撮影」の境界が曖昧で、観客側も両者を区別せずに消費している実態がある。
AV 新法以降、出演契約の書面化と待機期間の設定により、純粋な路上飛び込み型の撮影は事実上不可能となった。現在の街ナンパものは、事前に出演契約を結んだ出演者と撮影日に「街頭ナンパ風」シーンを撮影するモデルが標準であり、ジャンルとしての形式は維持されつつ実質は変化している。
ジャンルとしての訴求力は、観客側が「これがフィクション化された街ナンパ風シーンである」ことを承知した上で消費する形に移行しつつある。リアリティの程度よりも、街頭ナンパ風の物語フォーマットそのものへの嗜好が、ジャンル消費の中核を成すといえる。
関連項目
最終更新
「街ナンパ」の動画作品
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参考文献
- 『アダルトビデオ革命史』 幻冬舎 (2009)
- 『性風俗産業の社会学』 勁草書房 (2017)
別名
- マジ軟派
- 街頭ナンパ
- ナンパ企画