バルトリン腺(大前庭腺、英: Bartholin’s glands / greater vestibular glands)は、膣口の両側、小陰唇の後端付近にひとつずつ存在する一対の小さな外分泌腺である。17世紀デンマーク人解剖学者カスパル・バルトリン(Caspar Bartholin the Younger, 1655–1738)が記載したとされ、その名を冠している。
解剖学的構造と位置
バルトリン腺本体は大きさ約0.5〜1 cmの円形〜楕円形の構造で、大陰唇の基部深部に埋もれていて通常は触知できない。各腺から膣口の後外側に向けて約2 cmの細い導管(バルトリン管)が伸び、その開口部は膣口と小陰唇の境界部(前庭の後外側)に開く。
バルトリン腺は粘液腺であり、分泌された液体は導管を通って前庭に達する。腺体は血管に富んでおり、性的興奮時には充血して分泌が促進される。
性的潤滑機能
バルトリン腺の主な機能は、性的興奮時に少量の潤滑液(粘液)を分泌して膣口周辺を湿潤にすることである。この分泌液は清澄で粘稠度が低く、膣口付近の摩擦を軽減して性行為を快適にする。
ただし、バルトリン腺が産生する分泌量は実際にはきわめて少なく(数滴程度)、膣全体の潤滑のほとんどは膣壁からの滲出液(transudate)によるとされる。膣壁は性的興奮時に充血し、血管の液体成分が管壁を通って膣内腔に滲み出すことで大部分の潤滑が賄われる。バルトリン腺の寄与は補助的なものだが、膣口直近への局所的な潤滑として機能する点に生理的意義がある。
加齢とともにバルトリン腺の分泌機能は低下し、閉経後はさらに顕著になる。これが閉経後の膣乾燥(萎縮性膣炎)の一因ともなる。
バルトリン腺嚢胞・膿瘍
バルトリン腺の最も一般的な問題は、導管の閉塞による嚢胞形成である。
バルトリン腺嚢胞は、導管が詰まると分泌液が貯留して袋状の膨らみを形成するもので、無症状の小さなものから、直径数センチに達して歩行・坐位・性行為に支障をきたすものまで幅がある。無症状なら経過観察、症状があれば穿刺・造袋術(marsupialization)が行われる。
バルトリン腺膿瘍は、嚢胞に細菌感染が加わって急速に腫脹・発赤・疼痛が生じる病態で、起因菌は大腸菌・黄色ブドウ球菌・淋菌・クラミジアなど多様である。激痛を伴うことが多く、切開排膿と抗生剤治療が必要となる。
バルトリン腺嚢胞・膿瘍は生殖年齢の女性の約2%に生じるとされ、婦人科外来でよく見られる疾患のひとつである。閉経後の高齢女性が新たにバルトリン腺嚢胞を生じた場合、まれに腺癌(バルトリン腺癌)との鑑別が必要とされる。
スキーン腺との比較
バルトリン腺と混同されやすいのがスキーン腺(Skene’s glands, 傍尿道腺)である。スキーン腺は尿道口の両側に開口する小さな腺で、組織学的に前立腺と類似した特性をもち、「女性射精」との関連が研究されている。バルトリン腺が膣口後方の潤滑を担うのに対し、スキーン腺は尿道口周辺の分泌にかかわる点が解剖学的に異なる。
最終更新
別名
- Bartholin's gland
- 大前庭腺
- バルトリン腺嚢胞
- bartolin