勃起障害(ぼっきしょうがい、英: erectile dysfunction, ED)は、満足な性交渉を行うのに十分な勃起を得ること、または維持することが持続的・反復的にできない状態と定義される(NIH Consensus Statement, 1992年)。かつて「インポテンツ(impotence)」と呼ばれたが、同語が貶称的なニュアンスをもつとして現在では「勃起障害(ED)」という医学的用語が標準となっている。
疫学と日本の現状
世界的には40〜70歳の男性で何らかの程度のEDが約52%に認められるとするマサチューセッツ男性高齢化研究(MMAS)が有名で、加齢とともに有病率が上昇する。
日本では1998年のシルデナフィル(バイアグラ)承認以降、EDへの社会的認知が急速に広まった。日本性機能学会の調査では、何らかのED症状を持つ男性は40歳以上で約1130万人と推計されている(2003年)が、治療を受けている人は推計のごく一部にとどまる。日本人男性は「恥ずかしい」「年齢のせい」として受診を避ける傾向が強く、受診率の低さが問題とされてきた。
分類
EDは原因によって3つに大別される。
器質性ED(organic ED): 血管・神経・ホルモンなど身体的異常が原因のもの。糖尿病・高血圧・動脈硬化・高脂血症・肥満による動脈狭窄、前立腺手術・骨盤骨折など神経損傷、テストステロン低下によるホルモン性EDなどが含まれる。
心因性ED(psychogenic ED): 不安・うつ病・パフォーマンス不安・パートナーとの関係問題など心理的要因が主体のもの。若年者に多い傾向があり、夜間勃起(nocturnal penile tumescence, NPT)が保たれている場合に心因性が疑われる。
混合型ED: 器質的要因と心理的要因が複合するもの。多くの中高年EDはこのカテゴリに属する。
診断
問診では「勃起に関するスコア(IIEF:International Index of Erectile Function)」が国際標準ツールとして使われる。15問から成り、勃起機能・オルガズム機能・性欲・性交満足度・全般的満足度を評価する。
検査は血液検査(血糖・脂質・テストステロン値)、夜間勃起検査(RigiScan)、陰茎動脈超音波検査などが状況に応じて行われる。
治療
PDE5阻害薬(phosphodiesterase type 5 inhibitor) が第一選択治療として世界的に確立されている。海綿体内の一酸化窒素(NO)シグナルを増強して平滑筋弛緩→血液流入を促進する機序をもつ。代表薬はシルデナフィル(バイアグラ)・タダラフィル(シアリス)・バルデナフィル(レビトラ)の3種。日本では2012年にタダラフィルの毎日服用型(5 mg)も承認されており、常時勃起機能を底上げするアプローチが選択できる。
PDE5阻害薬が無効の場合、陰茎海綿体注射療法(アルプロスタジル)、真空収縮療法(VED)、手術的治療(陰茎プロステーシス留置)が検討される。
心因性EDには心理療法・性カウンセリングが有効で、PDE5阻害薬との組み合わせが推奨されることが多い。
生活習慣と予防
EDは心血管疾患のリスクマーカーとしての意義も認識されている。EDの発症から心筋梗塞・脳梗塞の発症まで平均2〜5年の先行期間があるとする研究があり、EDは血管内皮機能障害の早期サインとして捉えられる。
禁煙・適切な運動・体重管理・節酒が器質性EDの予防・改善に有効とされ、特に有酸素運動(週150分以上の中等度運動)がED改善に有意な効果をもつことが複数のメタ解析で示されている。
最終更新
別名
- ED
- 勃起不全
- erectile dysfunction
- インポテンツ