不感症(ふかんしょう)は、性的刺激に対して身体的・主観的な反応がほとんど得られない、または著しく低下した状態の通称的表現である。医学的に確立された単一の診断名ではなく、DSM-5やICD-11では「女性性的関心・興奮障害(Female Sexual Interest/Arousal Disorder, FSIAD)」など複数の診断カテゴリに分散している。日本語の「不感症」は一般用語として広く使われるが、「感じない女性」というスティグマ化されたイメージを含む言葉でもあり、医療場面での使用を避ける傾向がある。
医学的分類(FSD)
女性性機能障害(Female Sexual Dysfunction, FSD)は4つのカテゴリに整理される。
性的関心・興奮障害(FSIAD): 性的活動への関心が乏しく、性的刺激を受けても興奮が生じない、または主観的な興奮と身体反応(膣潤滑・充血)が乖離する状態。
オルガズム障害: 性的刺激を受けてもオルガズムに至れない状態。詳細はオーガズム障害の項を参照。
性交疼痛症関連: 疼痛が性的反応・関心を妨げるもの。
性欲低下障害(Hypoactive Sexual Desire Disorder, HSDD): 性的ファンタジーや性行為への欲求が持続的に低下または消失した状態。DSM-5では女性のHSDDはFSIADに統合されたが、ICD-11ではHSDDとして独立した診断として残っている。
原因
ホルモン的要因としてテストステロンとエストロゲンの低下が性的関心・興奮に影響する。更年期・産後・授乳期・卵巣摘出後はエストロゲンが急低下し、性欲・潤滑・感度すべてに影響が及ぶ。テストステロンは女性でも副腎・卵巣から産生されており、これが低下すると性欲(リビドー)が顕著に落ちる。
薬剤の影響として、SSRI系抗うつ薬は性的無感覚(genital anesthesia)・オルガズム遅延・性欲低下の副作用が知られており、これが不感症として訴えられるケースは多い。抗てんかん薬・抗精神病薬・降圧薬(β遮断薬)も性機能に影響しうる。
心理的要因として、抑うつ・不安障害・PTSD、過去の性的トラウマ、身体イメージへの否定的認識、セックスへの罪悪感・羞恥心が挙げられる。「感じてはいけない」「快楽を求めるのは恥ずかしい」という内面化されたメッセージが性的反応を抑制することがある。
関係性要因として、パートナーとのコミュニケーション不全・関係満足度の低さ・性的コンパチビリティの問題も大きな要因となる。
「不感症」という言葉の問題
「不感症」という言葉には「女性が感じないのは欠陥・異常」というスティグマが含まれる。しかし女性の性的反応は男性より刺激・文脈の選択性が高く、「適切な刺激・状況でなければ反応しない」のは正常の範囲内ともいえる。
また男性の視点から「自分のやり方で反応しない女性は不感症だ」と判断されるケースも多く、実際には「技術・コミュニケーションの問題」であるにもかかわらず「女性の問題」と誤帰属されることがある。この点は性医学・カウンセリングの現場でも繰り返し強調される。
治療と対処
原因疾患・薬剤の見直しが基本。閉経後のエストロゲン低下には局所エストロゲン療法が有効で、全身的な性欲低下には低用量テストステロン補充療法の有効性を示す報告がある(ただし日本未承認)。
心理的要因が大きい場合は認知行動療法・マインドフルネスベースの性的療法・セックスセラピーが選択肢となる。自分の性的反応パターンを理解するセルフプレジャー(自慰)の探索を推奨する性教育的アプローチも取り入れられている。
最終更新
別名
- 性的無反応
- Female Sexual Dysfunction
- FSD
- 女性性機能障害