男性更年期(だんせいこうねんき)は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の緩やかな低下によって引き起こされる多彩な身体的・精神的症状の総称である。医学的には「加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群: Late-Onset Hypogonadism)」と呼ばれ、女性の閉経に相当する概念として2000年代以降に日本での認知が広まった。
テストステロン低下のメカニズム
テストステロンは精巣のライディッヒ細胞で産生される男性ホルモンの主体で、20〜30代に最高値を示した後、40代以降に年率約1〜2%の緩やかな低下が続く。80代になると多くの男性で若年期の50〜70%程度の水準になる。
ただし個人差は非常に大きく、同年齢でも血中テストステロン値に数倍の差がある。生活習慣(睡眠・運動・栄養・ストレス)が低下の速度に影響し、慢性的なストレス・肥満・睡眠不足はテストステロン低下を加速するとされる。
症状
LOH症候群の症状は多岐にわたり「なんとなく調子が悪い」という非特異的なものが多いことが診断を難しくする。
性機能関連では性欲の低下・勃起障害(ED)・朝勃ちの消失・射精量の減少・オルガズム感の希薄化が典型的な症状である。精神・神経系では意欲・集中力の低下、易疲労、抑うつ気分、不眠、記憶力の低下が見られる。身体的には筋力・筋肉量の低下、体脂肪増加(特に内臓脂肪)、骨密度の低下、発汗・ほてり(女性の更年期に相似した症状)、体毛の変化も起こりうる。
診断
自記式の症状スコア「AMSスケール(Aging Males’ Symptoms Scale)」が国際的に用いられる。血中テストステロン値は早朝採血で計測し、多くのガイドラインでは総テストステロン値8.0 nmol/L以下(または遊離テストステロン値の著明な低下)を治療対象の目安としている。ただし症状と値の相関は必ずしも強くなく、症状・値の両方を総合的に評価する。
男性更年期と似た症状を呈する疾患として甲状腺機能低下症・うつ病・睡眠時無呼吸症候群・前立腺疾患などがあり、鑑別が重要である。
テストステロン補充療法(TRT)
テストステロン補充療法(TRT: Testosterone Replacement Therapy)はLOH症候群の主な治療法で、外から男性ホルモンを補充して低下した水準を回復させる。日本ではエナント酸テストステロンの筋肉内注射(250 mg、2〜4週に1回)が保険適用を持つ唯一の製剤形態として普及している。欧米ではゲル製剤・貼付剤・舌下錠など多様な剤形が使用されているが、日本での保険適用剤形は限られる。
TRTの適切な実施により、性欲・勃起機能・活力・筋肉量・骨密度・気分の改善が報告されている。一方で前立腺肥大・前立腺がんへの影響(がんを加速させる可能性)、多血症(ヘマトクリット上昇)、睡眠時無呼吸の悪化、精子産生の抑制(外から補充すると精巣の産生が止まる)などのリスクがあり、PSA(前立腺特異抗原)検査・定期的なモニタリングが必須となる。
生活習慣による対策
軽度のLOH症候群に対しては生活習慣の改善がまず推奨される。有酸素運動・筋力トレーニングはテストステロン値を自然に上昇させる効果があり、特に高強度インターバルトレーニング(HIIT)の有効性を示す研究がある。十分な睡眠(7〜8時間)・節酒・禁煙・体重管理もテストステロン維持に寄与する。
最終更新
別名
- LOH症候群
- 加齢性腺機能低下症
- late-onset hypogonadism
- テストステロン低下