セックスセラピー(性療法、英: sex therapy)は、性機能障害・性的不満・性的な不安・パートナーとの性的問題を対象とした、専門的な心理的・医療的援助の総称である。身体的治療(薬物・手術)とは区別されるが、現代の実践では両者を組み合わせることが多い。
歴史:マスターズ&ジョンソン
セックスセラピーの基礎を築いたのは、アメリカの婦人科医ウィリアム・マスターズ(William H. Masters)と心理学者バージニア・ジョンソン(Virginia E. Johnson)のコンビである。1966年に発表した『Human Sexual Response(人間の性的反応)』で、性的反応の4段階モデル(興奮・高原・オルガズム・解消)を実験的に体系化し、人間の性行動を科学的研究の対象として確立した。
続く1970年の著書『Human Sexual Inadequacy(人間の性的不全)』ではEDや早漏・不感症・オルガズム障害を対象とした短期集中的治療プログラムを提示した。最大の革新は「感覚集中法(sensate focus)」であり、パートナー間でのノンセクシュアルなタッチから始め、段階的に性的接触を再学習するアプローチである。この手法は現在もセックスセラピーの基礎技法として世界的に使われている。
主要な技法
感覚集中法(sensate focus): マスターズ&ジョンソンが開発した核心技法。挿入・オルガズムを目的としない「触れること・感じること」の練習から始め、パフォーマンス不安を解除しながら性的接触を再構築していく。
認知行動療法(CBT): 性行為に関する否定的・歪んだ認知(「自分は性的に失敗する」「パートナーを満足させられない」など)を識別・修正する手法。性的不安・パフォーマンス不安への有効性が高い。
カップルズセラピー: 性的問題はパートナーシップの問題であるとの観点から、コミュニケーション・関係性・愛着スタイルを扱う。個人の性機能だけでなく、二者間のダイナミクスを変容させることを目指す。
マインドフルネスベースのアプローチ: 性行為中に「頭の中で観察者になって評価している状態(スペクタータリング)」から抜け出し、身体感覚への集中を促す技法。女性の性的興奮障害・オルガズム障害への有効性が研究されている。
セックスセラピストの資格と倫理
国際的には米国性教育学会(AASECT: American Association of Sexuality Educators, Counselors and Therapists)が認定セックスセラピスト資格を発行しており、倫理規定・研修時間・スーパービジョン要件が定められている。
倫理上の最重要原則として、セックスセラピーは「言語的なセラピー」であり、セラピスト自身が性行為に参加・示範することはいかなる場合も許容されない。これは売春・性的サービスとの明確な一線である。
日本での普及状況
日本のセックスセラピーの歴史は浅く、1970〜80年代に婦人科医の増淵一正らが欧米の性療法を導入・紹介した経緯がある。現在は性機能外来(泌尿器科・婦人科・精神科)に附設された形で行われることが多いが、独立した専門資格制度は整備されていない。
「性カウンセリング」「SEX相談」を名乗る民間の事業者には質のばらつきが大きく、身体的サービスと混同されたグレーな業態も存在するため、正規の医療・心理機関との区別が重要となる。日本性科学会・日本性機能学会が専門家育成や啓発に取り組んでいる。
対象となる主な問題
勃起障害(ED)・早漏・射精遅延・膣けいれん(バギニスムス)・不感症・オーガズム障害・性的欲求の不一致・性的コミュニケーション不全・産後の性生活再構築・性的トラウマの後遺症などが主な対象となる。
最終更新
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別名
- 性療法
- sex therapy
- 性カウンセリング
- sexual therapy