コンビニの一角、女性誌の棚の脇にひっそり並ぶ薄い表紙の漫画雑誌は、ピンク色のロゴと身体を絡ませる男女の絵柄で目立っている。買っていくのは20代の女性ではなく、買い物袋を提げた30代から50代の主婦であることが多い。レディースコミック(略称レディコミ)とは、30代以上の主婦・社会人女性を主要読者とする性描写を含む女性向け漫画ジャンルの総称であり、ティーンズラブ(TL) より年齢層・人生観の比重が高い領域を指す。
概要
レディースコミックの読者は、結婚・出産・育児・仕事・介護といった人生のフェーズを既に経験している、または直面している女性層に偏る。物語の主人公の年齢設定もそれに合わせて20代後半から40代が多く、扱われるテーマも 不倫・夫の浮気・夫婦関係の倦怠・職場の人間関係・経済的困窮 といった生活密着型のものに広がる。
代表的なレーベルにぶんか社「comic 嬉野」「ハーレクインコミックス愛」「ヤングレディース・ハニーミルク」 系、コスミック出版、宙出版「Love Silky」、秋田書店「forレディ」 等がある。コンビニ流通(ローソン・セブン-イレブン等の成人向け雑誌コーナー) とコミックシーモア・めちゃコミック等の電子配信が販売の二大経路となってきた。
語源と区分
「レディースコミック」 は1980年代に出版業界が 女性向けの大人漫画 を指して用い始めた呼称である。少女漫画(10代女性向け) ・ティーンズラブ (20代女性向け)と区別する目的で、より上の年齢層と既婚・既体験の読者を想定した枠として確立した。英語圏で「ladies comic」 が同義で通じるかは別として、和製英語として定着している。
歴史
1980年代の黎明
レディースコミックは1980年に発刊された講談社『BE-LOVE』『コミックモーニング』 系列の女性向け漫画誌の流れと、より直接的な性描写を含むぶんか社・秋田書店・宙出版・大都社系の成人向けレーベルが二系統で立ち上がったジャンルである。1980年代後半には主婦読者層を狙った専門誌が複数創刊され、不倫・職場恋愛・夫婦の性的不満をテーマにした作品が定型化した。
1990年代の隆盛
1990年代はレディコミの黄金期で、大都社『eYe’s』、ぶんか社『comic嬉野』『コミック・ルナティック』、宙出版『コミックパフェ』 等が定常的に高売上を維持した。コンビニ流通網との結合が市場拡大の鍵となり、女性が日常の買い物のついでに購入できる動線が成立した時期である。
2000年代の沈静化と電子化
2000年代に入ると紙の女性誌全般の不調と並行してレディコミの紙媒体は縮小し、電子書籍プラットフォームへの移行が進んだ。コミックシーモア(NTTソルマーレ)・めちゃコミック(アムタス) が電子配信の主力となり、現在は紙では入手困難な過去作も含めて、検索性の高い電子書庫として再構築されている。
作風と TL との対比
TL との最大の違いは、ヒーロー像の 非ファンタジー性 である。TL の御曹司・財閥跡継ぎ・俺様年下といったロマンス小説的な類型に対し、レディコミの相手役は会社の同僚・上司・近所の男性・夫の友人・配達員・夫本人等、現実の生活圏に存在しうる人物であることが多い。
身体描写の写実度も TL より高く、年齢を重ねた身体・出産経験のある身体・夫婦関係に倦怠を感じている主人公が中核に置かれる。「人妻が同窓会で再会した男性に流される」「育児疲れの妻が宅配ドライバーと関係を持つ」 といった、生活の延長線上にある不倫・逸脱が物語の典型を成す。
受容心理:疑似体験としての逸脱
レディコミ読者の多くは、現実には不倫や逸脱を実行しないままに、物語の中で 自分が踏み越えなかった選択肢 を疑似体験する。日常の家事・育児・仕事のルーティンの中で抑圧された欲望を、コマの中のヒロインが代行してくれる構造である。読み終えた後に作品を捨てるか引き出しに隠す行為まで含めて、ジャンルの消費形式は完結する。
人妻もの の AV や官能小説 と並んで、女性自身が消費者として確立した日本独自の成熟ジャンルである。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『レディースコミックの研究』 出版業界誌特集 — 1990年代以降の市場動向
- 『comic 嬉野 公式サイト』 ぶんか社 https://www.bunkasha.co.jp/
- 『週刊女性自身』 光文社 — レディコミ批評記事多数
別名
- レディコミ
- 主婦向け成人漫画
- 女性成人漫画