シルクとレース、ガーターベルトの留め金、肌の上で光を曖昧に散らす微透けの布。ブラとショーツが用紙のセットで売られているのではなく、上下を別々にコーディネートしてベッドサイドの照明の下に並べる。日常下着とは別系統の、特定の場面のためだけに選ばれる衣装としての下着である。 ランジェリー(らんじぇりー、英語 lingerie)とは、装飾性・扇情性を強調した高級下着の総称である。フランス語 linge(リネン・布製品)を語源とし、十九世紀末に「視覚的に魅せる下着」として概念化された経緯を持つ。機能的な日常下着とは別系統の、装飾と扇情を主目的とする下着群を指す。
語源
「ランジェリー」(lingerie)は、フランス語 linge を語源とする。linge は中世フランス語で「リネン製品」「亜麻布」全般を指し、ラテン語 lineus(亜麻製の)・linum(亜麻、リネン)に遡る。十五世紀のフランス語では「リネン製品の倉庫・市場」「リネン店」を指す広義の用語として使われていた。
英語に「lingerie」が借用されたのは一九世紀半ばで、当初は当時としては露骨な「下着」を婉曲に表す言葉として導入された。一八五〇年代後半から徐々に一般化し、女性下着のうち装飾性の高いものを指す英語語彙として定着した。
装飾下着としての成立
下着が「魅せるもの」として概念化されたのは、一九世紀末から二〇世紀初頭である。それ以前の女性下着は、コルセット・ペティコート・シュミーズといった機能的な構造衣で、実用性と身体補正が主目的だった。
これを変えたのは、英国のラッキー・ダフ=ゴードン(Lady Duff-Gordon、ブランド名 Lucile)である。彼女は一九〇〇年代に、コルセットに代わる柔らかなランジェリーを設計し、女性を硬い構造衣から解放しつつ、視覚的な魅力を追求した。これが現代的な装飾ランジェリーの起源と位置づけられる。
二〇世紀を通じて、ランジェリーはファッション産業の独立したカテゴリとして発展した。フランスの Chantelle、Aubade、米国の Victoria’s Secret(一九七七年創業)、Agent Provocateur(一九九四年創業ロンドン)などのブランドが、装飾性と扇情性を主軸に据えた製品ラインを展開してきた。
性的訴求の文化的経路
ランジェリーが大衆文化で「セクシーな衣装」として可視化されたのは、二〇世紀後半である。一九五〇年代から一九六〇年代にかけて、Playboy 誌・グラビア誌・映画におけるピンナップ的な表現でランジェリー姿が定着した。一九九〇年のマドンナのワールドツアー(Blond Ambition Tour)で、ジャン・ポール・ゴルチエがデザインした円錐ブラを衣装として着用したことは、ランジェリーを下着の枠から外して舞台衣装の領域に押し上げた象徴的事例とされる要出典。
日本では、欧米のランジェリー文化が一九八〇年代から一九九〇年代にかけて高級下着市場として導入された。Wacoal の「セクシー&ランジェリー」ライン、輸入下着専門店の登場、雑誌『anan』『FRaU』の特集を通じて、若い女性にとって「魅せる下着」が普及した。一方、AV・グラビアでは早くから定番衣装として用いられ、白・黒・赤の三色が伝統的な扇情カラーとして機能してきた。
ランジェリーの構成要素
ランジェリーと一般下着を分ける視覚要素は、いくつかの定型を持つ。レース(機械編みのレース・手刺繍のレース)、シースルー素材(チュール・オーガンザ)、サテン光沢、ガーターベルト・ストッキングの組み合わせ、ベビードール・キャミソール・スリップ・コルセット型の構造、装飾的なリボン・蝶結び。これらの要素が二つ以上組み合わさったとき、装着物は「日常下着」から「ランジェリー」のカテゴリに移る。
色は伝統的に黒・赤・白の三色がエロティックな含意を強く持つ。黒は成熟と支配性、赤は情熱と挑発、白は純潔とのコントラスト効果として、それぞれ二〇世紀の広告・映画文化を通じて記号化されてきた。
フェチとしての位置づけ
下着フェチの中でも、ランジェリーへの志向は独自の位置を占める。一般的な日常下着(白いブラ、無地のショーツ、シマパン)への嗜好が「素朴・無防備の魅力」を訴求するのに対し、ランジェリーへの嗜好は「意図された性的演出」「相手のための装い」という能動的扇情性を訴求する。
着エロ・グラビアでは、水着とランジェリーは肌の露出度がほぼ同じでありながら、観る側の感情反応が大きく異なる素材として扱われる。水着は屋外・公共空間の衣装の延長で扇情性が薄まるが、ランジェリーは寝室・親密な空間の衣装として、観る者を「特別な場面の目撃者」の位置に置く。
ストッキング・ガーターベルト・コルセットなどの組み合わせは、それぞれ独立したフェチ対象を成しつつ、ランジェリーセットの構成要素として総合的な「魅せる下着」を完成させる。
派生形態
「セクシーランジェリー」「ベビードール」「ボディスーツ」「ガーターセット」など、特定の用途・形態に特化したサブカテゴリが多数存在する。日本のアダルト系ショップでは、これらに加えて「コスプレ系ランジェリー」(メイド・ナース・チャイナ服風)が独自のカテゴリを形成している。
近年は男性用ランジェリーの市場も少しずつ拡大している。装飾的なメンズビキニ・スリップなどを扱うブランドが現れ、性別二分法に縛られない下着のあり方が模索されている要出典。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『Lingerie - Etymology, Origin & Meaning』 Etymonline https://www.etymonline.com/word/lingerie
別名
- 高級下着
- lingerie
- フランス下着