ジムの大鏡の前で、肌に貼りついたグレーのスポーツブラの裾から汗が一滴落ちる。レギンスの腰のゴム、剝き出しの肩、結い上げた髪。乳房を持ち上げて見せる装飾的なブラジャーとは正反対に、乳房の動揺を抑え込むために設計された機能装束が、運動という文脈を媒介として独自の嗜好対象になる。スポーツブラ(英: sports bra)とは、運動時の乳房の動揺を抑制するために設計された、カップ構造を持たない締め付け固定型の上半身用下着、またはその着用姿を性的興奮の対象とする嗜好の総称である。1977 年米国での発明以降、ジョギング・ヨガ・フィットネス・スポーツジム文化の普及とともに広まり、運動着としての機能性と汗ばんだ肌の感覚的記号を結合した、独自の装束フェチ領域を形成している。
語源と定義
英語 sports bra は、sports(運動)+ bra(brassiere の略、ブラジャー)の複合語で、運動用に設計されたブラジャーを意味する。一般のブラジャーが乳房を持ち上げ・包み・形を整える装飾的下着であるのに対し、スポーツブラは乳房の上下動・横揺れを抑制する機能下着である点が、構造的・目的的に区別される。
定義としてのスポーツブラは、伸縮性ある合成繊維(ナイロン・スパンデックス・ポリエステル等)を用い、カップ構造を持たないか、もしくは取り外し可能なパッドを用いる。胸郭全体を圧迫式に固定する仕立てを基本とし、ホックや背面ストラップを排した、上から被るプルオーバー型が多い。
歴史
スポーツブラの最初期の商業的成功例は、1977 年に米国バーモント州の女性、リサ・リンダール(Lisa Lindahl)とポリー・スミス(Polly Smith)、ヒンダ・ミラー(Hinda Miller)の三名が共同開発した「ジョグブラ」(Jogbra)である。ジョギング中の乳房の動揺と擦過に悩んだリンダールが、男性用ジョックストラップ二つを縫い合わせて試作したのが原型とされる。1980 年代以降のジョギングブーム・エアロビクスブームを背景に、ジョグブラは爆発的に普及し、その後 Champion 社が買収して市場を拡大した。初代ジョグブラはスミソニアン博物館に収蔵され、近代スポーツ用品史の象徴的アイテムとして位置づけられている。
2000 年代以降のヨガ・ピラティス・フィットネスクラブ文化の世界的拡大、2010 年代の「アスレジャー」(athleisure、運動着を日常着として着る潮流)の興隆を経て、スポーツブラは運動施設外でも着用される日常着の一部となった。日本では 2010 年代以降のヨガ人気・大手アパレルブランドの参入により、機能下着の標準品目として広く流通している。
嗜好の構造
機能性ゆえの装飾の不在がまず核となる。レースもフリルも装飾的縁取りもなく、無地で実用一辺倒の仕立てが、かえって「飾らない素の身体」を強調する。装飾的ランジェリーが虚構性・演劇性を強調するのに対し、スポーツブラは現実の生活・健康管理・運動習慣の延長にある衣装として、日常感の記号性を担う。
圧迫による身体線の変形も独特の訴求点を生む。スポーツブラは乳房を持ち上げず、むしろ平らに押さえつける構造を持つ。この圧迫により、通常の下着とは異なる身体線が現れる。乳房が柔らかく揺れる印象とは対照的に、固定され制御された胸の形状が独特の視覚的印象を生む。
運動文脈との結合が嗜好の中核を構成する。スポーツブラは、汗、息遣いの乱れ、運動による紅潮、髪を結い上げる所作、レギンスや短パンとの組合せ等、運動の身体的記号と必ず結合して着用される。これらの感覚的記号(汗・体熱・息継ぎ等)が、衣装そのものに重層的に付加される。
剥き出しの腹部・腰部・肩・背中も訴求点となる。スポーツブラの裾は通常、肋骨下部または臍上で終わる短い丈で設計され、レギンスや短パンと組み合わせる際に腹部全体が露出する。背中も大きく開いた仕立てが多い。この胸郭周辺の圧迫と、その上下の素肌の対比が、視覚的訴求点を構成する。
派生形態
- レーサーバック型:背中で Y字状に交差するストラップ
- クロスバック型:背中で交差するストラップ
- フロントジッパー型:前面ファスナーで脱着可能な仕立て
- ロング丈スポーツブラ(クロップトップ型):臍まで覆う長尺型
- ヨガ用ライトサポート型:軽負荷向け、ストラップが細い
- ハイインパクト型:ランニング・高強度運動向け、厚手生地
- ブラトップ(一体型タンクトップ):ブラと一体のトップス
- アスレジャー系:日常着兼用のオシャレ志向
文化的言及
成人向け作品においては、スポーツブラは「ヨガ帰り」「ジム帰り」「ジョギング途中」「フィットネス系彼女」といった具体的状況設定と結びついて運用される。汗ばんだ身体・運動後の疲労・着替え途中の中断等、運動文脈ならではの視覚的・状況的設定が、嗜好の核心を構成する。AV 領域では「スポーツインストラクター」「ヨガ講師」「フィットネス系」といった企画類型のなかで、スポーツブラ姿は標準的衣装として運用されている。
二次元表現においても、スポーツブラはランニングシーン・部活動・ジム回・ヨガ回等の具体的状況において、キャラクターの健康的・活動的な側面を示す記号として機能する。普段は装飾的下着を身につけているキャラクターが、運動シーンでスポーツブラに着替える描写は、人格の別側面の提示として運用される。
英語圏では sports bra fetish はより広い「アスレジャー・フェチ」「フィットネス・フェチ」の一部として語られる傾向がある。日本では 2010 年代以降のヨガ・ピラティスブームのなかで、スポーツブラ単体としての嗜好が独立した訴求対象として分化しつつある段階にある。
社会学的には、スポーツブラの普及は女性のスポーツ参加・身体的自己管理の拡大と並行する現象である。1972 年の米国教育改正法第 9 条(Title IX)による女子スポーツ機会の拡大、1980 年代以降のフィットネスブーム、2010 年代のセルフケア文化等、女性の身体への関与の社会的変化と、スポーツブラの市場拡大は密接に対応してきた。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『Jogbra: A Brief History』 Smithsonian National Museum of American History (2014) — ジョグブラ初代資料の所蔵記録 https://americanhistory.si.edu/blog/jogbra
- 『The Bra Book』 BenBella Books (2009)
- 『下着の文化史』 光文社 (2008)
- 『ジャンル別 AV 大全』 コアマガジン (2014)
別名
- sports bra
- スポブラ
- スポーツブラジャー
- フィットネスブラ
- ヨガブラ