耳がはっきりと露出している、首筋の輪郭が遮られず外気に晒されている、後頭部から襟足にかけて滑らかに段がついている。後ろから抱きしめると、首の付け根の素肌が手のひらで直接に触れられる。ショートヘア(英: short hair)とは、耳より上または首の付け根より上の長さに短く切った女性の髪型、またはその髪型を有する女性を性的興奮の対象とする嗜好の総称である。1920 年代以降の女性の社会進出と並行して広まり、ボーイッシュ・活発・現代的・自立的な女性類型と結びついた、ロングヘアと対をなす髪型フェチの代表的形態として確立している。
語源と定義
英語 short hair はそのまま「短い髪」の意で、特定の長さを定義する厳密な用語ではないが、一般には肩より明確に短く、耳の高さ以下に毛先が来る髪型を指す。日本語ではそのまま「ショートヘア」「ショートカット」と呼ばれる。さらに短い髪型は「ベリーショート」「ピクシーカット」と細分化される。
定義としてのショートヘアは、毛先が肩を越えない、首の付け根が露出する、耳が完全に露出する、という三つの基準のいずれかを満たす髪型を指す。これに対し、毛先が肩〜顎の間に来る髪型はボブヘア、毛先が肩より明確に長い髪型はロングヘアと呼ばれ、別カテゴリに分類される。男性的な極短髪型(刈り上げ・スポーツ刈り等)はさらに別領域に位置する。
歴史
女性の短髪の歴史的位置は、長く社会規範への明確な異議申し立てとして読まれてきた。20 世紀以前の欧米社会では、女性が髪を短く切ることは強い社会的逸脱として批判され、断髪に踏み切る女性は少数だった。例外的に、罰として断髪を強いられた女性(姦通の罰、宗教的離反の罰等)、宗教的修練として髪を切る修道女、戦時下に男装した女性兵士などの限定的事例が知られる。
近代的な意味での女性の短髪流行は、第一次世界大戦中・戦後の女性の社会進出と並行する。1910-1920 年代の欧米において、戦時の物資不足・労働従事の必要性・女性参政権運動・モダニズム文化の興隆を背景に、女性の短髪が広く普及した。1920 年代の「フラッパー」(flapper)文化のなかで、短髪は新しい女性像の象徴として広まった。
1960 年代後半から 1970 年代の第二波フェミニズムは、再びショートヘアを政治的記号として再活性化させた。「女性は長髪であるべし」という伝統的美意識への反発として、ショートカットを意識的に選択する女性が増加した。同時期の英国デザイナー、ヴィダル・サスーンによる短いカットの普及、米国のミア・ファロー(『ローズマリーの赤ちゃん』1968)の超短ピクシーカットも、ショートヘアの文化的地位を高める契機となった。
日本では大正期の「断髪」文化、戦後の「マニッシュ・カット」流行、1980 年代の「テクノカット」、1990 年代の「ベリーショート」流行、2000 年代の女優・アイドルによる短髪化等、断続的にショートヘアの流行が繰り返されてきた。2010-2020 年代には「ハンサムショート」「ジェンダーレスショート」と呼ばれる、性別二元性を緩やかに横断する短髪が広く支持を集めている。
嗜好の構造
ショートヘアフェチの性的訴求は、四つの構造要素により成立する。
第一に、首・うなじ・耳・後頭部の全面的露出である。ロングヘアが首回りを部分的に覆い隠すのに対し、ショートヘアはこれらの領域を完全に外気に晒す。とりわけ襟足から首の付け根、耳の後ろ、頭蓋骨と首の境界部分が、髪に遮られることなく直接視覚に提示される。後ろから抱擁する際、首筋に触れる際、唇を寄せる際の物理的接触面が、装具なしに直接運用される。
第二に、ボーイッシュ・中性的記号性である。短髪は性別二元的記号性を緩める方向に働く。ロングヘアが「明確な女性性」を視覚的に強調するのに対し、ショートヘアは女性的な顔立ち・身体線と短髪の組合せによって、性別記号の不一致による独自の魅力を生む。中性的・ボーイッシュ・スポーティ・自立的・現代的な人格類型と結びついて運用される。
第三に、表情・顔の輪郭の直接性である。ショートヘアは顔を髪で隠す余地を持たない。額・耳・首・顎の輪郭がすべて視覚的に露出し、装着者の表情変化が髪に遮られず直接観察される。「髪をかきあげる」「髪で顔を隠す」「髪を耳にかける」といった、ロングヘアに特有のしぐさが成立しない代わりに、装着者の表情そのものが視覚的訴求点となる。
第四に、解いた時の落差の不在(と、それゆえの安定性)である。ロングヘア・ツインテール・ポニーテール等が「結束→解く」「整える→乱れる」の段階性を持つのに対し、ショートヘアは常にほぼ同じ視覚状態にある。この変化のなさが、装着者の人格的・状況的な揺らぎとは独立した「変わらない安定」として運用される側面を持つ。
派生形態
- ピクシーカット:極短のフェミニンショート
- ベリーショート:刈り上げを伴う極短型
- マッシュショート:頭頂部に丸みを残した可愛い系
- ハンサムショート:中性的・ジェンダーレス系
- ウルフカット:短いトップ+長めの襟足、現代型
- 内巻きショート:毛先を内側にカール
- 外ハネショート:毛先を外向きにカール
- 黒髪ショート:伝統的清楚さと現代性の混成
- 茶髪・金髪ショート:ボーイッシュ・現代的
- 二色染めショート:ストリート系・サブカル系
- アシンメトリーショート:左右非対称、サブカル系
文化的言及
成人向け作品においては、ショートヘアは「ボーイッシュ系」「現代女性系」「スポーツ系」「気が強い同僚系」等の役柄類型と結びついて運用される。AV 領域では、女優の中で特に「ショートヘアが似合う」とされるタイプが独立した訴求点を持ち、ロングヘアの女優とは異なる作品系統で運用される傾向がある。
二次元表現においては、ショートヘアは「活発・元気・スポーツ少女・男勝り・友達系・年上の頼れる姉貴系」等の人格類型を視覚的に伝達する標準記号として運用される。「ショート+運動部」「ショート+ボーイッシュ」「ショート+先輩キャラ」等の組合せが、ジャンル横断的な表現規約として確立している。物語上、ロングヘアのキャラクターが断髪してショートになる展開は、人格的な決意・転換・独立を示す重要な物語的演出として運用される(『フルーツバスケット』『新世紀エヴァンゲリオン』等)。
ファッション・ヘアサロン文化においては、ショートヘアは「自分らしさを表現する髪型」「メンテナンスのしやすい髪型」「年齢を重ねた女性の選択」「自立を選んだ女性の選択」等の意味づけで運用される。「ロングからショートへの転換」は、女性の人生段階の節目と結びついて読まれることが多く、髪型の変化が人格・人生の変化を象徴する伝統的解釈枠組みのなかで運用されている。
英語圏では short hair fetish は確立した嗜好領域として認識されており、特に「pixie cut fetish」が独自の細分嗜好として知られている。社会学的には、ショートヘアの女性に性的訴求を感じる嗜好は、ジェンダー二元性を緩やかに揺らす「中性的魅力」「アンドロジナス・アピール」の系譜に位置づけられる。
関連項目
最終更新
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参考文献
- 『Hair: A Human History』 Pegasus Books (2016)
- 『Bobbed Hair and Bathtub Gin: Writers Running Wild in the Twenties』 Harcourt (2004)
- 『髪と日本人』 平凡社 (1988)
- 『髪型の文化人類学』 白水社 (1995)
別名
- short hair fetish
- ショートカット
- pixie cut
- ベリーショート
- 短髪