両手両膝を畳に着けて獣の姿になる。男は背後から覆いかぶさるように腰を寄せる。前を向く者と後ろから繋がる者がいて、視線は交わらない。江戸期の艶本はこの姿勢を、なんの遠慮もなしに犬かけ位(いぬかけい)と呼んだ。獣の交尾を直截に名指しすることで、生殖の本能性と性愛の戯謔性を同時に書き留めた古典体位の名称である。
犬かけ位とは、四十八手に列せられる後背位系統の体位で、女性が両手両膝を畳に着いた四つん這いの姿勢を取り、男性がその後ろに膝立ちまたは跨座して挿入する形態を指す。「犬かけ」とは犬の交尾姿に見立てた俗称であり、艶本によっては「犬畜生」「四つ手」「四つん這い」とも記される。現代のアダルト動画における doggy style ・後背位の最も直截な祖型である。
語源
「犬かけ」の名は、犬の交尾の体勢に女性の四つん這いを重ねた直接的な比喩から来る。江戸期の艶本ではしばしば動物に擬えた命名がなされており、馬乗り(馬乗り位)・蛙はり・猫鳴きなど、動物名を冠する体位が並ぶ。犬かけはその系列で最も基幹的なものに位置づけられる。
『カーマ・スートラ』にも dhenuka(雌牛位)という同型の動物名体位があり、後背位を獣の交尾に擬える命名は古今東西で観察される普遍的命名法である。これは姿勢の視覚的類似性に加え、性交における動物的本能の解放という連想が普遍的であることを示唆する。
構造
犬かけ位の基本姿勢は、女性が両手のひらを畳または床に着け、両膝を肩幅程度に開いて立つ四つん這いである。背は水平か、やや反る。腰の高さは男性の挿入位置に合わせて調整される。男性は女性の真後ろに膝立ちし、両手で女性の腰・尻・ウエストを掴んで支え、自身の腰のみで律動を作る。
挿入角度は浅めから深めまで幅広く可変で、女性の腰の高さ・男性の腰の入れ方・男性が膝立ちか跨座かによって調整される。腰高にすれば門切りに近づき、腰を低くすれば寝バック(ねバック)に近づく。両側に派生体位が伸びる中央に位置する基幹姿勢であるといえる。
視線は基本的に交わらない。女性は前方を向き、男性は女性の背中・髪・うなじを見下ろす。表情の交換が行われない代わりに、腰の動き・尻肉の揺れ・喘ぎ声・髪の乱れといった非対面の感覚情報が視聴覚を満たす。
受容心理
犬かけ位は、対面型体位とは対極的な心理を呼ぶ。視線が交わらないことで、感情交換の儀礼性が低下し、性交の動物性・身体性が前景化する。これを支配・服従の構図として読む視点が古今に存在し、江戸期の艶本でも「畜生のごとし」と書きつつ嗜好の対象として扱う両義的記述が散見される。
現代のアダルト動画では、犬かけ位/後背位は最頻出の挿入体位のひとつである。騎乗位・正常位と並ぶ三大基幹体位を構成する。理由として、第一に挿入の様子・男性器・女性の尻・腰の動きが画面正面から視認できる「絵作りのしやすさ」、第二に深い挿入が可能で動きの幅が大きい「演技のしやすさ」、第三に表情を強調する正常位、女性主導の騎乗位とのコントラストとなる「ジャンル内分化のしやすさ」が挙げられる。
ぽっちゃり・巨乳系作品では、後背位での乳房の揺れ・尻肉の波打ちが強調される画作りが定型化している。美尻・美脚系では尻の形状そのものが画面の主役となる。
派生形態
四十八手における犬かけの派生としては、以下が挙げられる:
これらは挿入角度・接触面積・主導権の所在によって性格が分かれるが、いずれも視線が交わらない後背の構図を共有する。
文化的言及
「犬かけ位」の語は明治以降ほぼ廃れ、現代では「四つん這い」「後背位」「バック」「ドギー」などの呼称が用いられる。それでも四十八手リバイバルの文脈や時代物作品で再登場することがあり、和風シチュエーションのアダルト作品では「犬畜生のごとく」のセリフとともに古典名称が引用されることがある。
民俗学的には、人間の性交を獣の所作に重ねる江戸期の命名感覚は、性愛における生殖性・本能性を否定せず、むしろ戯謔的に肯定する文化を物語る。明治以降の近代化過程でこの感覚は隠蔽され、医学的・正常的な体位記述に置換されていった。
関連項目
最終更新
参考文献
- 『閨中紀聞・枕文庫』 (1822-1832)
- 『四十八手考』 学研 (2007)
- 『Kāmasūtra』 (c. 4th century CE) — dhenuka(雌牛位)の章。動物に擬えた後背位の古典記述
別名
- 犬掛け
- 犬畜生
- 犬位
- dog position