主人公と女の子が、何の事件にも巻き込まれずに、ただ夏休みのプールサイドで話している。話題は進路のことで、女の子は将来の不安を打ち明けて、主人公はそれに頷きながら聞いている。第二章でようやく手をつなぎ、第五章でやっと触れ合う。性描写は最終章近くにごく短く、しかし二人の長い物語の重さがそこに収斂する。真面目もの(まじめもの)とは、登場人物の心情描写と関係性の発展に重きを置く成人向け作品の系列を指す業界用語である。
概要
真面目ものは、独立したジャンル名というより業界・読者間の俗称として運用されてきた語で、鬼畜系・凌辱系の対極に位置する作品群を指すラベルである。性表現のあり方そのものは伝統的な範囲に収まり、登場人物が合意のうえで関係を深め、心情の交流や恋愛の発展を時間をかけて描く点に特徴を置く。
エロゲ業界では「純愛系」「泣きゲー」「萌え系」と呼ばれる作品群とおおむね重なり、エロ漫画では「ラブラブもの」「純愛」「夫婦もの」と呼ばれる系列に対応する。AV では「エモ系」「ストーリーもの」「ドキュメンタリー風」など複数の語が混在する。共通項は「強制・暴力・反社会的描写を主題としないこと」と「登場人物の内面描写に時間を割くこと」の二点である。
鬼畜系との対比軸
業界内で真面目ものという語が機能してきた背景には、鬼畜系・凌辱系といった攻撃的ジャンルの存在が必須条件としてある。1990 年代後半から 2000 年代初頭にかけてエロゲ・エロ漫画市場で凌辱系作品が増加し、これに対する反作用として「そういう作品ではないもの」を識別するための逆引きラベルとして真面目ものという語が定着した経緯がある要出典。
両者の境界は形式的というより心情的な指標で引かれる。たとえば初体験を扱う作品でも、当事者同士が関係構築の延長線上で迎える描写なら真面目ものに分類され、強制的に経験させる描写なら鬼畜系・凌辱系に分類される。同じ性描写でも文脈と心情描写によって分類が決まるという点が、このジャンル区分の特徴である。
メディア別の展開
エロゲにおける真面目もの
エロゲ業界では 1990 年代末から 2000 年代にかけて、Leaf『To Heart』(1997)、Key『Kanon』(1999)・『AIR』(2000)・『CLANNAD』(2004)等の作品群が「泣きゲー」と呼ばれるムーブメントを形成した。これらの作品は性描写を含みつつも作品全体の重量はストーリーと心情描写に置かれ、ヒロインとの関係性が物語の核心を占める構成を取った。これが後に「真面目系エロゲ」「ストーリー系」と呼ばれるカテゴリーの基盤となった。
美少女ゲーム業界では真面目ものは長らく主流派の一角を占めてきたが、2010 年代以降の市場縮小と、同人ゲーム・DLsite等インディー流通の拡大を通じて、より短編・即物的な作品との競争関係に置かれている。
エロ漫画における真面目もの
エロ漫画では「ラブラブもの」「純愛もの」「夫婦もの」が真面目ものに該当する系列で、雑誌『COMIC アンスリウム』『COMIC LO』(後者は別系統だが心情描写重視の側面を共有)等の系統に作家陣が集まる傾向がある。短編形式が中心の同人誌市場でも、二人の関係に焦点を絞った真面目もの系作家は安定した読者層を抱える。
AV における真面目もの
AV では「エモ系」「ストーリー AV」「ドキュメンタリー風」など複数の表現が併存する。撮影前のインタビュー、女優の生い立ちや動機の語り、行為前の対話を長く撮ることでドキュメンタリー的な真摯さを演出するスタイルが、2010 年代以降の SOD・Madonna・たけのこ系作品で確立してきた。
受容心理の背景
真面目もの嗜好の背景には、複数の動機が積み重なる。一つは 関係性の積み上げそのものへの欲求 である。ポルノが瞬間的な刺激を最大化する方向に進化してきた中で、関係構築の時間を丁寧に描く作品は、消費としての性描写に飽きた読者層に対して別の種類の満足を提供する。
もう一つは 合意と尊重の物語 への希求である。鬼畜系・凌辱系が過剰に展開されてきた市場環境で、同意のもとに関係が成立し、双方が肯定的に経験を共有する物語は、それ自体が希少価値を持つようになった。社会全体の同意意識の高まりと並行して、真面目もの市場は緩やかに拡大してきた領域である。
第三に、性描写以外の語りへの飢え がある。短時間で大量の刺激を消費するモードに対する反動として、長尺・低密度・心情重視の作品を好む層が一定数存在し続けてきた。エロ作品をストーリーアートとして読みたいという要求が、このジャンルを支える基盤となっている。
関連用語との交差
- 純愛系:真面目ものとほぼ同義で運用されるが、より恋愛感情に焦点を絞ったラベル
- 夫婦もの:既婚者同士の関係を扱う系列で、真面目ものの中核
- 萌え系:キャラクター造形の可愛さを核とする領域で、真面目ものとしばしば重なる
- 泣きゲー:涙を誘う物語性を売りにしたエロゲ群
関連項目
最終更新
「真面目もの」の同人作品(DLsiteランキング)
参考文献
- 『美少女ゲームの臨界点』 波状言論 (2004)
- 『エロマンガ・スタディーズ —「快楽装置」としての漫画入門』 イースト・プレス (2006)
- 『動物化するポストモダン』 講談社現代新書 (2001)
- 『美少女ゲームの哲学』 ユリイカ 2006 年 1 月号 (2006)
別名
- マジメ系
- 真面目系エロ
- serious adult work
- エモ系AV