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地下鉄の通気の上で、白いドレスがふわりと宙に浮く。両手で必死に押さえながら、彼女はカメラに向かって笑う。1955 年公開の『七年目の浮気』のワンシーンである。マリリン・モンローのこのカットは、撮影から半世紀以上が過ぎた今も世界中で再生産され続け、20 世紀の性的魅力を象徴する一枚として機能し続けている。一個の身体イメージが、時代と国境を超えてある時代の性的感性そのものを代表する現象、それがセックスシンボルである。

セックスシンボル(sex symbol、性的象徴)とは、大衆メディアにおいて性的魅力の象徴として広く認知された人物を指す英語起源の語である。20 世紀のハリウッド映画黄金期に語の使用が定着し、以降、映画・音楽・モデル・スポーツなど大衆文化の各領域で、その時代の性的審美観を代表する人物に対して用いられてきた。本項では語の成立、ハリウッド古典期、1960 年代以降の多元化、日本の文脈、男性セックスシンボルを扱う。

語の成立

「セックスシンボル」の英語表現が大衆紙面で定着したのは、1950 年代の米国である。マリリン・モンローを評する形容として『ライフ』『ルック』など写真誌が反復的に用い、以降ハリウッドのスター・システムを記述する標準語彙として確立した。それ以前、1920 年代から 40 年代にかけては「ヴァンプ」(vamp、男を破滅に導く魔性の女)、「セックス・キトゥン」(sex kitten、若く愛らしい性的存在)など、より限定的な語が使われていた。

シンボル(象徴)という語が示すとおり、特定の人物の身体的特徴・身振り・声・スタイルが、時代の性的欲望のありかたを集約的に体現する点に語の力点がある。ある人物が特定の性的指向の対象であるだけでは「セックスシンボル」とは呼ばれず、その人物のイメージが社会全体の性的感性の参照点として機能して初めて、この称号が成立する。

ハリウッド古典期(1920-1950 年代)

サイレント映画期の代表は、「It Girl」 と称されたクララ・バウ、 ジーン・ハーロウ、 メイ・ウェストといった「フラッパー世代」の女優群である。1920 年代の女性参政権獲得・短髪・ショートスカートと連動する形で、性的に活発な現代女性のイメージが映画産業で生産・流通した。

トーキー期の 1930-40 年代は、ヘイズ・コード(プロダクション・コード、1930 年制定、1934 年から本格運用)による厳しい性表現規制下で、暗示と象徴を駆使した「成熟した女」の演出が洗練された。リタ・ヘイワース、エヴァ・ガードナー、ヴェロニカ・レイクらは、性的暗示を含む役柄でハリウッドの中核を支えた。

1950 年代、マリリン・モンロー(1926-1962)、ブリジット・バルドー(1934-)、エリザベス・テイラー(1932-2011)、ソフィア・ローレン(1934-)、ジーナ・ロロブリジーダ(1927-2023)など、戦後の繁栄と冷戦の緊張が同居する時代を象徴するセックスシンボルが世界的に流通した。モンローの早逝(1962)はとりわけ、20 世紀後半の大衆文化における「セックスシンボルの神話化」の出発点となった。

1960-70 年代の転換

1960 年代後半の性革命、ヘイズ・コード廃止(1968 年)、第二波フェミニズムの興隆により、セックスシンボルの像は多様化・複雑化した。ラクエル・ウェルチ、ジェーン・フォンダ、ファラ・フォーセットらが新時代のセックスシンボルとして登場する一方、シンボルとしての消費そのものを批判するフェミニズム言説も同時並行で蓄積した。

1970 年代以降、英米のグラビア誌『プレイボーイ』『ペントハウス』が誌面のシンボル候補を毎月入れ替える形でアイコン生産を加速し、フランスの雑誌『リュイ』『プレイボーイ・フランス』、伊『プレイメン』など各国版が並行展開した。アイコンの寿命は短縮し、その時代を象徴する一個の存在から、毎年・毎月更新される消費財へとシンボルの性格は変化していった。

1980 年代以降の多元化

1980 年代以降、シンボルの担い手はモデル・歌手・スポーツ選手・テレビタレントへと拡散した。マドンナ、シンディ・クロフォード、シャロン・ストーン、シンディ・ロウパー、ケイト・モス、ナオミ・キャンベル、パメラ・アンダーソンらは、それぞれ異なる業界・異なる審美観を背景にシンボルとして機能した。

1990 年代以降のインターネット普及、2000 年代の SNS 普及により、セックスシンボルの生成・流通の経路は劇的に拡張した。一国規模のスター・システムから、グローバルかつローカルが並存する多層的なアイコン文化へと、性的象徴のあり方は構造変化を遂げた。

日本の文脈

日本における類似概念は、戦前期の「銀幕の女王」(田中絹代、原節子ら)、戦後の「太陽族の女」(芦川いづみら)、ピンク映画期の「ピンクの女王」(田中真理ら)、AV 黎明期の「カリスマ女優」(黒木香飯島愛蒼井そらら)など、各時代に固有の語彙で表現されてきた。1980 年代以降、英語借用形「セックスシンボル」が日本語でも定着し、グラビアアイドル・AV 女優・歌手・モデルなど多領域の女性スターを記述する標準語彙として運用されている。

グラビアアイドルAV 女優の系譜は、日本独自のセックスシンボル文化を形成した。週刊誌グラビア・写真集・AV・テレビバラエティが連動する芸能産業構造のもと、シンボルが多層的に再生産される独特の生態系が成立している。

男性セックスシンボル

男性側のセックスシンボルは、女性に比べて語の使用頻度が低いものの、ルドルフ・ヴァレンティノ(1920 年代)、マーロン・ブランド・ジェームズ・ディーン(1950 年代)、ショーン・コネリー(1960 年代)、ロバート・レッドフォード(1970 年代)、ブラッド・ピット(1990 年代-)、デヴィッド・ベッカム(2000 年代)らが、各時代の男性的魅力の象徴として機能してきた。ジェンダー規範の変容に伴って男性身体への性的視線が公然と語られる場が拡大し、現代では男女双方のセックスシンボルが対等に語彙化される傾向にある。

関連項目

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参考文献

  1. Dyer, Richard 『Stars』 British Film Institute (1979)
  2. Basinger, Jeanine 『Hollywood Goddesses』 Simon & Schuster (2009)
  3. Brown, Peter Harry & Barham, Patte B. 『Marilyn: The Last Take』 Dutton (1992)
  4. 石原郁子 『20世紀のセックスシンボル』 フィルムアート社 (2002)

別名

  • セックス・シンボル
  • 性的象徴
  • sex symbol
  • 性的アイコン
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