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風俗博物館とは、性愛・性風俗・性表現に関する歴史的資料、美術作品、民俗学的遺物、商業的展示物などを収蔵・展示する施設の総称であり、性を学術的・観光的・娯楽的対象として可視化する近現代固有の文化装置である。

性風俗博物館(せいふうぞくはくぶつかん)とは、人間の性愛・生殖・性風俗・性表現に関する文物を収集・保存・研究・展示する博物館類型の総称である。学術的研究機関に附置された性史資料館から、観光地に立地し娯楽的展示を旨とする秘宝館、現代美術と性的表象を交差させる美術館型施設まで、形態は多岐にわたる。性をめぐる事物が公的言説の周縁に置かれてきた歴史的経緯ゆえに、その収蔵・公開は常に博物館学的・倫理的・法的議論の対象となってきた。

概要

性風俗博物館は、博物館学(Museology)上の特殊類型の一つとして位置づけられる。一般の歴史博物館・美術館と異なり、収蔵対象が社会的タブーの領域に属するため、展示意図・観覧条件・年齢制限・倫理規定の設計に固有の困難を伴う。施設の性格は大別して以下の四類型に整理される。

第一は学術型である。大学・研究機関に附置され、性史・民俗学・医学史・人類学的観点から資料を収蔵する。展示よりも収蔵・研究機能を中心とする場合が多い。第二は美術館型である。春画・エロティック・アートを美術史的文脈で扱い、現代美術と接続する。第三は娯楽観光型である。日本の秘宝館や欧州の一部の私立博物館がこれに該当し、温泉地・観光地への集客装置として機能する。第四は商業文化型である。性産業の歴史・性具・成人メディアに関する資料を扱い、性産業の文化的位相を提示する。

語源と類型

「性風俗博物館」の語は日本語の総称的呼称であり、英語圏では一般に「sex museum」「erotic museum」「museum of eroticism」などと表記される。日本において広く知られた施設形態である「秘宝館」(ひほうかん)は、1970 年代以降の観光土産・温泉文化と結合した独自の系譜を成し、博物館学的な分類において「観光型性風俗博物館」として論じられる。

学術的な博物館登録(博物館法上の登録博物館・博物館相当施設)を受けた性風俗博物館は、日本国内では極めて少数である。多くは登録博物館の要件を満たさない私設展示施設として運営されてきた要出典

歴史

黎明期 — 19 世紀の医学・人類学コレクション

性に関する博物学的収集の起源は、19 世紀ヨーロッパの医学・人類学・性科学の勃興に遡る。マグヌス・ヒルシュフェルト(Magnus Hirschfeld)が 1919 年にベルリンに設立した性科学研究所(Institut für Sexualwissenschaft)は、世界初の性科学的アーカイブを擁する施設の一つとして知られ、人類学的・医学的標本、世界各地の性的民俗資料を収蔵した。同研究所は 1933 年にナチス政権下で襲撃され、所蔵資料の大部分が焚書・破壊されたが、近代的性研究と性風俗博物館の理念的源流として位置づけられる。

イタリア・ナポリ国立考古学博物館の「秘密の小室」(Gabinetto Segreto)は、ポンペイ・ヘルクラネウム遺跡から出土した性的造形物を収蔵する区画として 18 世紀後半に設けられ、長らく一般公開を制限されてきたが、2000 年に正式に常設公開された。これは公的機関による性的文物展示の先駆的事例として知られる。

20 世紀後半 — 観光化と専門館の出現

1960 年代の性革命(Sexual Revolution)以降、欧米では性表現の社会的可視化が進行し、これと連動する形で専門的な性風俗博物館が相次いで設立された。1985 年、オランダ・アムステルダムに開館した Sexmuseum Amsterdam Venustempel(「ヴィーナスの神殿」)は、世界最古のセックス・ミュージアムを称する施設の一つであり、ダム広場至近の中央駅前に立地し、観光資源としての性表象という新たな文化形態を体現した。

2002 年、ニューヨーク・マンハッタンに開館した Museum of Sex(MoSex)は、より明確に学術的・美術館的姿勢を打ち出した施設として注目を集めた。常設・企画展では性表現史、性具の文化史、ジェンダー、HIV/AIDS の社会史、現代美術等を扱い、博物館学的標準に準拠する一方で、ミュージアム・ショップの商業的成功も特徴的である。

日本における展開 — 秘宝館の隆盛と衰退

日本における性風俗博物館の独自類型として、観光地・温泉地に展開した「秘宝館」がある。1972 年に三重県の伊勢神宮内宮近くに開館した「元祖国際秘宝館」を嚆矢とし、1980 年代までに北海道(嬉野)、伊豆(熱海・伊東)、別府、鬼怒川など全国の温泉観光地に多数開館した。蝋人形、自動人形(からくり)、模型、春画複製、世界の性具コレクション等を雑然と展示し、団体旅行客・社員旅行・新婚旅行を主たる客層とした。

秘宝館は学術的博物館とは異なる、戦後昭和の観光文化に固有の表象装置として、社会学的研究の対象となっている(妙木忍『秘宝館という文化装置』)。1990 年代以降、団体旅行の衰退、新婚旅行の海外化、観光様式の個人化、施設の老朽化により全国的に閉館が相次ぎ、2010 年代後半までに常設営業を続けるのは熱海秘宝館等の数館に縮減した。

学術的アプローチを取る施設としては、京都に所在した「ファロス博物館」など民俗学的・人類学的視点を採用した私立館の試みが見られたが、いずれも経営的持続性の問題を抱えてきた要出典。性に関わる文物を体系的に収蔵する公的博物館は日本において希少であり、春画浮世絵等の性表現史資料は一般の美術館・図書館・大学資料館に分散所蔵されている。

収蔵資料と展示

性風俗博物館の典型的収蔵資料は、博物館学的に以下の系統に分類される。

第一に、性的造形物・神像である。生殖器形態の祭祀具(性器神像、男根神、女陰神)、各地の豊穣祈願に関わる民俗資料が含まれる。日本の道祖神・金精様(こんせいさま)、ギリシアのプリアポス神像、インドのリンガ・ヨーニ等が代表的である。これらは性が宗教的・呪術的儀礼と結びついていた前近代社会の様態を伝える人類学的資料として重要視される。

第二に、性的視覚芸術である。春画浮世絵の中の笑い絵、エロティック版画(rococo eroticism、ビアズリー等)、近現代の性的写真・絵画が含まれる。第三に、性具・装具類である。歴史的な性具、貞操帯、避妊具、現代のヴァイブレータ・コンドーム等の変遷を辿る系統的展示が行われる。

第四に、性風俗産業に関する資料である。遊郭・売春宿の調度、商業的性風俗の歴史的記録、近代の公娼制度吉原島原に関わる文物等。第五に、近現代メディア資料である。カストリ雑誌、成人雑誌、アダルトビデオに関わる文化史的資料が、メディア史的観点から扱われる。

学術的基盤

性風俗博物館の学術的基盤は、19 世紀末に形成された性科学(Sexology)、20 世紀の文化人類学・民俗学・社会学的性研究、および 1970 年代以降のジェンダー研究・セクシュアリティ研究に求められる。ミシェル・フーコー『性の歴史』(1976)に代表される性をめぐる言説の近代的構築過程の分析は、性風俗博物館自体を「性を可視化し言説化する近代の装置」として批判的に対象化する視座を提供した。

博物館学的には、性風俗資料の収蔵・展示は以下の特殊論点を有する。すなわち、年齢制限による観覧者制御、当事者(被写体・モデル等)の人権配慮、現代の倫理基準と歴史資料の文脈差、地域文化的多様性への配慮、児童に関わる表象の絶対的排除、等である。これらの倫理規定は、各国の博物館協会(ICOM 等)の倫理規程と各館の運営方針によって個別に設計される。

法制度との関係

性風俗博物館は、各国のわいせつ物関連法、青少年保護法、博物館法、関連条例等の法的枠組み下で運営される。日本においては、刑法 175 条のわいせつ物頒布罪、各都道府県の青少年健全育成条例、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)等が関連する。学術的・教育的目的による展示は、判例上、わいせつ概念の判断において一定の考慮要素となるが、絶対的免責ではない要出典

欧米では、芸術的・学術的価値を有する展示は表現の自由の枠内で広く許容される一方、年齢制限・観覧条件は各国・各州の規制に従う。MoSex(ニューヨーク)では 18 歳以上の入館制限が設けられている。

衰退と現代の動向

21 世紀に入り、伝統的な秘宝館型の観光博物館は世界的に衰退傾向にある一方、学術的・美術館的な性風俗博物館は新たな展開を見せている。デジタル・アーカイブの整備、オンライン展示、性研究の学術的成熟、ジェンダー・セクシュアリティ研究の拡大、LGBTQ+ 関連資料の収蔵対象化等が、現代の性風俗博物館の課題と方向性を規定している。

日本においては、明治大学米沢嘉博記念図書館、立命館大学アート・リサーチセンター、国際日本文化研究センター等が春画・性表現史資料の学術的収蔵・公開を進めている。一方、観光型秘宝館の閉館に伴い、その収蔵物の散逸・廃棄が文化資料保存の観点から懸念されている。性風俗に関わる文物が学術的継承体制に十分接続されていない現状は、近現代日本の性表現史研究における構造的課題として論じられている。

関連項目

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参考文献

  1. 妙木忍 『秘宝館という文化装置』 青弓社 (2014)
  2. ミシェル・フーコー(渡辺守章訳) 『性の歴史 I 知への意志』 新潮社 (1986)
  3. 『Museum of Sex 公式サイト』 Museum of Sex (New York) — ニューヨーク市マンハッタンの私立博物館 https://www.museumofsex.com/
  4. 『Sexmuseum Amsterdam Venustempel 公式サイト』 Sexmuseum Amsterdam — 1985 年開館、世界最古のセックス・ミュージアムを称する https://www.sexmuseumamsterdam.nl/
  5. 全国大学博物館学講座協議会西日本部会編 『博物館概論』 学文社 (2018)
  6. 妙木忍 『観光地化される性―秘宝館の社会学』 週刊金曜日 (2010)

別名

  • 性博物館
  • sex museum
  • 秘宝館
  • エロス博物館
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